チケットの転売は定価以下なら合法|法律の条文で確認する
急に予定が入ってライブに行けなくなったとき、「定価以下で誰かに譲るなら問題ないはず」と考える方は多いのではないでしょうか。実際、チケット不正転売禁止法の条文を読むと、定価以下の転売はこの法律が禁じる行為の要件を満たしません。ただし、それは「何をしても大丈夫」という意味ではありません。この記事では、法律の条文と文化庁の公表資料をもとに、定価以下の転売がどう扱われるのか、それでも問題になりうる場面はどこかを整理します。
定価以下の転売は「ただちに違法」とはされていない
先に結論から書きます。文化庁は、チケット不正転売禁止法に関するQ&Aのなかで、自分が購入したチケットを定価または定価以下で転売した場合について、それだけでただちに同法違反となるわけではない、という趣旨の説明をしています。
理由は単純で、この法律が禁止している「不正転売」には、後述するとおり「定価を超える価格で売ること」という要件が含まれているためです。定価以下で売れば、この要件に当てはまりません。
ただし文化庁は同じ回答のなかで、イベント主催者が定めるガイドラインや規約によっては、購入者本人以外は入場できない旨や、興行主の同意のない譲渡を有償・無償を問わず禁止する旨が定められている場合があり、定価以下の転売や無償の譲渡であっても規約違反として不利益を被る可能性があると注意を促しています。つまり「法律には引っかからないが、主催者との約束には引っかかりうる」という二層構造になっています。
参考:「チケット不正転売禁止法をわかりやすく!Q&A【チケットを購入する消費者編】」|文化庁
チケット不正転売禁止法とはどんな法律か
正式な名称は「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」です。平成30年(2018年)12月14日に平成30年法律第103号として公布され、令和元年(2019年)6月14日から施行されました。一般には「チケット不正転売禁止法」と呼ばれています。
目的は、特定興行入場券の不正転売を禁止することで興行入場券の適正な流通を確保し、文化・スポーツの振興と国民の消費生活の安定に寄与することにあるとされています。
罰則も定められており、禁止される不正転売をした者、および不正転売を目的としてチケットを譲り受けた者は、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科とされています。
参考:「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」|e-Gov法令検索
規制されるのは「特定興行入場券」だけ|3つの要件
この法律は、すべてのチケットを対象にしているわけではありません。対象となるのは「特定興行入場券」に当たるチケットに限られます。文化庁は、次の3つの要件をすべて満たすものが特定興行入場券に当たると説明しています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 日時・場所等の指定 | 興行が行われる特定の日時と場所、および入場資格者または座席が指定されていること |
| 譲渡禁止の明示と券面表示 | 販売時に、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、その旨がチケットの券面(電子チケットの場合は画面)に表示されていること |
| 購入者情報の確認と券面表示 | 販売時に、購入者または入場資格者の氏名と連絡先を確認する措置が講じられ、その旨が券面に表示されていること |
3つのうち1つでも欠ける場合、そのチケットは特定興行入場券に当たらず、チケット不正転売禁止法の適用対象外になります。文化庁も、要件を満たさなかった場合は同法を理由に転売者へ法的措置を取ることが難しくなる、と主催者向けに説明しています。
なお、チケット販売サイトやファンクラブの会員登録時に氏名・連絡先の確認が済んでいる場合は、会員番号を確認することで確認措置が講じられているとみなされる、という運用も示されています。
参考:「チケット不正転売禁止法をわかりやすく!Q&A【チケットを販売するイベント主催者編】」|文化庁
「不正転売」の2つの要件|定価超えと「業として」
対象が特定興行入場券だったとしても、あらゆる転売が禁止されるわけではありません。法律が禁じる「不正転売」は、興行主の事前の同意を得ない有償譲渡のうち、次の2つを満たすものと定義されています。
- 業として行う(=反復継続して転売する意思がうかがえる)ものであること
- 興行主等の販売価格(定価)を超える価格を販売価格とするものであること
文化庁は「業として」の意味について、繰り返し転売する反復継続性の意思がうかがえることを指すと説明しています。そのうえで、たった1回の転売行為であっても、繰り返し転売しようとしていた意思がうかがえる場合には、その時点で業として転売していると判断される可能性がある、としています。「1回だけなら大丈夫」「少し上乗せする程度なら大丈夫」という理解は成り立たない、というのが公表資料の説明です。
逆に言えば、定価以下で売る限り2つ目の要件を満たさないため、この法律の「不正転売」には該当しません。定価以下という点が効いてくるのは、あくまでこの価格要件においてです。
参考:「チケット不正転売禁止法をわかりやすく!Q&A【チケットを購入する消費者編】」|文化庁
定価以下でも問題になりうる3つの場面
法律の要件を外れていても、実際には次のような形でトラブルにつながることがあります。整理すると、論点は「法律」「主催者との契約」「取引そのもの」の3層に分かれます。
| 層 | 何が問題になるか | 定価以下でも起きうるか |
|---|---|---|
| チケット不正転売禁止法 | 定価超え+業として、の2要件を満たす転売 | 起きない(価格要件を満たさないため) |
| 主催者のガイドライン・規約 | 本人以外の入場禁止、有償・無償を問わない譲渡禁止 | 起きる |
| 取引上のトラブル | 入場拒否、途中退場、代金や現物のやり取りの不履行 | 起きる |
とくに2層目は見落とされがちです。文化庁は、券面に「購入者本人以外は入場できません」「興行主の同意のない譲渡は有償・無償を問わず禁止します」といった文言が記載されている場合、そのルールを知らなかったと主張することは難しくなる、と説明しています。定価以下であっても、規約違反として入場拒否や損害賠償請求などの不利益を受ける可能性は残ります。クオカードを売る前の公式ルール確認と同じで、発行元・主催者が定めた条件を先に読んでおくことが要になります。
3層目については、転売サイトで購入したチケットが手元に届かない、会場に入れない、入場後に退場を求められるといったトラブルが起こりうることが、同じQ&Aで挙げられています。譲る側も、代金を受け取ったのにチケットを渡せない、名義変更ができないといった形で当事者になりえます。
参考:「チケット不正転売禁止法をわかりやすく!Q&A【チケットを購入する消費者編】」|文化庁
繰り返し売買するなら古物営業法も関係してくる
もうひとつ見落とされやすいのが、古物営業法です。この法律は、盗品等の売買の防止や速やかな発見を図るために、中古品の売買に関わる営業を規制しています。
古物営業法では、「古物」に商品券の現金化で扱われるような商品券や乗車券などの証票類が含まれると定められており、その具体的な範囲は施行令で示されています。施行令が挙げるもののなかには、興行場や美術館、遊園地などの入場券が含まれます。国家公安委員会規則の区分でも、チケット類は「金券類」という品目に位置づけられています。
そのうえで、古物を売買する営業を営もうとする者は、買取業者の選び方でも確認したい都道府県公安委員会の許可(古物商許可)を受けなければならないとされています。ただし、自分が持っているものを売却するだけの営業は、この対象から除かれています。つまり、自分が使うつもりで買ったチケットを1枚手放すのと、転売目的で仕入れて売ることを繰り返すのとでは、法律上の位置づけが変わってきます。
許可を受けずに古物営業を営んだ場合、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と定められています。「定価以下だから法律は関係ない」と考えて反復継続的に売買を行うと、チケット不正転売禁止法とは別の入口で問題になりうる、という点は押さえておきたいところです。個別の事案がどう評価されるかは事実関係によって変わるため、判断に迷う場合は専門家に相談することをおすすめします。
行けなくなったチケットを手放すときの選び方
行けなくなったチケットの扱いについて、文化庁は消費者向けQ&Aのなかで、イベント主催者が案内する公式リセールサービス等を利用することを挙げています。公式リセールは主催者が用意した仕組みであるため、譲渡について主催者の同意があり、規約違反にもなりません。多くの場合、価格は定価に固定されています。
一方、転売サイトへの出品については、主催者が認めた正規販売ではないため、購入者が入場拒否や途中退場、損害賠償請求などの不利益を被る可能性があると説明されています。出品する側も、規約違反にとどまらず刑事・民事で責任を追及される可能性があるとされています。
手順としては、次の順に確認すると判断しやすくなります。
- チケットの券面や購入サイトの規約で、譲渡が認められているかを確認する
- 認められている場合、公式リセールや主催者指定の方法があるかを確認する
- どちらも用意されていない場合は、無理に譲らず払い戻し規定の有無を確認する
なお、正規のサービスかどうかを見分ける目印として、業界団体による認定制度もあります。チケット適正流通協議会は、チケット不正転売禁止法の施行に伴い、チケットの適正流通を推進する目的で設立された協議会です。日本音楽制作者連盟、日本音楽事業者協会、コンサートプロモーターズ協会、コンピュータ・チケッティング協議会などの業界団体と、チケット販売各社によって構成されています。同協議会は、安心してチケットを購入するための目印として正規のサービスに付与する「FTマーク」認定制度や、券面に不正転売禁止チケットである旨を明示する取り組みを行っていると公表しています。利用しようとしているリセールサービスがこうした認定を受けているかは、判断のひとつの材料になります。
参考:「チケット不正転売禁止法をわかりやすく!Q&A【チケットを購入する消費者編】」|文化庁
よくある質問
定価と同じ金額で転売するのは違法ですか。
チケット不正転売禁止法が禁じる不正転売は、定価を超える価格で売ることを要件のひとつとしています。定価と同額であればこの要件を満たさないため、同法違反にただちに当たるわけではないとされています。ただし主催者の規約で譲渡そのものが禁止されている場合は、規約違反となる可能性があります。
参考:「チケット不正転売禁止法をわかりやすく!Q&A【チケットを購入する消費者編】」|文化庁
定価より安く売れば、手数料や送料を上乗せしてもよいのですか。
公表されている資料では、手数料や送料の上乗せをどう扱うかについて明確な基準は示されていません。合計額が定価を超えれば価格要件に触れる可能性があり、超えない場合でも主催者の規約に反することがあります。判断に迷う場合は、主催者の問い合わせ窓口や専門家に確認するのが確実です。
友人に無料で譲るのは問題ありませんか。
チケット不正転売禁止法が対象とするのは有償譲渡です。無償の譲渡は同法の不正転売には当たりません。ただし文化庁は、主催者の規約で有償・無償を問わず譲渡が禁止されている場合があり、無償の譲渡でも規約違反として不利益を被る可能性があると説明しています。
参考:「チケット不正転売禁止法をわかりやすく!Q&A【チケットを購入する消費者編】」|文化庁
すべてのチケットがこの法律の対象になるのですか。
いいえ。対象は「特定興行入場券」に限られます。日時・場所等の指定、譲渡禁止の明示と券面表示、購入者情報の確認と券面表示という3つの要件をすべて満たす必要があります。要件を欠くチケットは、同法の適用対象外です。
参考:「チケット不正転売禁止法をわかりやすく!Q&A【チケットを販売するイベント主催者編】」|文化庁
トラブルになったときはどこに相談すればよいですか。
消費生活に関するトラブルは、買取のトラブルが起きたときの対処法と同様に、消費者ホットライン「188」から最寄りの消費生活センター等につながります。刑事事件に関わる可能性がある場合は警察、法律上の判断が必要な場合は弁護士など専門家への相談が考えられます。
まとめ
チケット不正転売禁止法が禁じる「不正転売」は、興行主の同意のない有償譲渡のうち、業として行うもので、かつ定価を超える価格で売るものと定義されています。定価以下での転売は価格の要件を満たさないため、同法違反にただちに当たるわけではない、というのが文化庁の説明です。
一方で、対象となるチケットが特定興行入場券に限られること、そして主催者のガイドラインや規約では有償・無償を問わず譲渡が禁止されていることがある点は、法律とは別に確認が必要です。反復継続して仕入れと転売を行う場合には、古物営業法の許可という別の論点も生じます。
行けなくなったチケットは、まず券面と規約を確認し、公式リセールなど主催者が認めた方法が用意されていればそれを使う。用意されていなければ無理に譲らない。この順で考えるのが、いちばん確実な進め方ではないでしょうか。