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本郷大田子とは|虹染の特徴と作家物の着物の見分け方

譲り受けた着物に「本郷大田子」という名前が添えられていた、あるいは落款らしき印を見つけて調べている、という方もいるのではないでしょうか。本郷大田子は、『虹染(にじぞめ)』という染色表現で知られる京都の作り手です。この記事では、公式サイトで確認できる本郷大田子と虹染の内容を整理したうえで、作家物の着物を落款・証紙・共箱からどう見分けるかを解説します。

本郷大田子と『虹染』

本郷大田子の公式サイトでは、『虹染』について次のように説明されています。

「多彩な色彩が、互いに響き合い、微妙に融け合って、独特の染色美を醸し出す『虹染』(にじぞめ)初代・本郷大田子が創始したこの染色表現は、防染による文様の表現技術を洗練させることの歴史であった日本の染色史の中で、初めて『ぼかし染』を主役として用いた染色表現であるという意味で、京友禅の中でも特異な位置を占めているといえるだろう」

また、虹染の成り立ちについては、「『虹染』は、初代・本郷大田子が十数年の歳月を費やして発明された染色技法である。昭和五十年四月十一日その特質と功績が認められ、京都府より『創意工夫発明功労賞』を授与された」と記されています。

参考:「本郷大田子 HONGOH TAIDENSHI」|本郷大田子公式サイト

つまり、虹染は初代が創始した技法であり、昭和50年4月11日に京都府から創意工夫発明功労賞を受けている、というのが公式サイトで確認できる内容です。

なお、初代の氏名や生没年、襲名以前の経歴については、公式サイトに記載がありません。この記事では、確認できない事項については記述を控えます。

虹染はどのような技法か

公式サイトでは、虹染の特徴が次のように説明されています。

「『虹染』の特徴は、臈纈染めの技法を使って表される文様展開もさることながら、多色のぼかし染による染料の重なりによって生じる地色の変化が生み出す色彩の輝きを湛えたような地風の立体的な表情にある」

ここから、虹染を構成する要素は2つに整理できます。

1. 臈纈染め(ろうけつぞめ)による文様

臈纈染めは、蝋で防染して染める技法です。蝋を置いた部分には染料が入らないため、そこが文様として残ります。蝋のひび割れによって生じる細かい線も、この技法の表情のひとつです。

2. 多色のぼかし染による地色

虹染で特徴的とされるのが、この地色の扱いです。公式サイトは、「地色を単なる脇役としてではなく表現の最も重要な手法として着目した『虹染』の独創性」と述べています。

一般に、染めの着物では文様が主役となり、地色は背景として扱われます。虹染はその関係を組み替え、多色のぼかしを重ねることで生まれる地色の変化そのものを表現の中心に据えている、という説明です。

名称の由来についても、「『虹染』という美しい響きをもったこの名称は、虹のような色彩のハーモニーとにじみの美しさといった、本郷大田子の染め特有の味わいにその由来があり」と記されています。

参考:「本郷大田子 HONGOH TAIDENSHI」|本郷大田子公式サイト

公式サイトに掲載されている略歴

公式サイトのprofileには、次の年譜が掲載されています。1986年に二代目を襲名した旨が含まれることから、二代目・本郷大田子の略歴と考えられます。

内容
1942年 京都に生まれる。
日本画家、水田慶泉氏に師事、大田子草堂塾にて染色を学ぶ 1969年 銀座ソニービルにて個展【リズムのなかの色と形】 1977年 個展【現代着物考】/京都ロイヤルホテル 1978年 個展【ドレスときもの】/京都ホテル 1979年 パリ国際会議場・パレデコングレパリにて【キモノ&ドレープ】発表 1981年 神戸ポートピア博・神戸国際交流会館にて【モダンジャパン’81】発表、米ジョージア大学にて【KIMONO EAST / WEST】発表 1983年 個展【きものタイムロード】/京都ホテル 1986年 二代目本郷大田子襲名、服飾功労賞受賞 1987年 ニュージーランド国立オークランド博物館【日本の伝統美 本郷大田子の世界展】 1989年 ベルギー【ユーロパリア’89】参加、ゲント市セント・ピータースアベイ美術文化センターにて【虹染め 本郷大田子展】 1991年 財団法人 国際デザイン交流協会より表彰 1994年 ギャラリーSPACE KI にて【虹文字展】 1996年 芸術公論殿堂作家賞受賞 1998年 芸術公論精鋭作家推薦に選出される 1999年 目黒美術館【京友禅 きのう・きょう・あした展】出品 2000年 清水寺本尊開帳33年記念【友禅 虹染めの世界展】 2001年 ポルトガル国立セアルテ芸術専門機関CRAT【Kimonos Tradicionals Japonese展】、【国際芸術文化功労賞】受賞 2016年 ギャラリー椋・上賀茂神社式年遷宮記念「虹文字展」

参考:「本郷大田子 HONGOH TAIDENSHI」|本郷大田子公式サイト

年譜からは、着物の枠にとどまらず、ドレスやテキスタイルとしての発表、海外での展示が繰り返されてきたことが読み取れます。上記以外の経歴・受賞歴については公式サイトに記載がないため、この記事では扱いません。

京友禅という背景

公式サイトは、虹染を「京友禅の中でも特異な位置を占めている」と位置づけています。そこで、京友禅そのものについても確認しておきます。

京友禅は、経済産業大臣指定の伝統的工芸品です。経済産業省の指定品目一覧によれば、指定年月日は昭和51年6月2日、都道府県は京都府とされています。

製造工程は、京都手描友禅協同組合によれば、手描友禅の場合、下絵、糊置(ゴム糸目)、伏糊、引染(地染め)、蒸し、水元、挿友禅という順で進みます。京都府は、元禄年間に京都・祇園あたりに住む扇絵師、宮崎友禅斎が美しく華麗な絵を描くことを加え、手描友禅として確立したと伝えられるとしています。明治期には、手描友禅の名匠であった広瀬治助によって「写し友禅」として型友禅が発明されました。

参考:「京友禅・京小紋」|京都府「手描友禅ができるまで」|京都手描友禅協同組合

日本の染色の歴史が、防染によって文様を表す技術を洗練させてきたものだという公式サイトの記述は、この京友禅の工程を踏まえたものと読めます。糸目糊も伏せ糊も、いずれも防染のための工程だからです。虹染が「ぼかし染を主役として用いた」と説明されるのは、その流れの中に置いたときの位置づけを示しているといえます。

作家物の着物をどう見分けるか|落款

手元の着物が作家物かどうかを確かめたい場合、最初の手がかりになるのが落款(らっかん)です。

落款は、作り手が自らの作品であることを示すために入れる印です。着物では、次のような位置に入っていることが多いとされます。

  • 衽(おくみ)の裏側、褄下(つました)のあたり
  • 裾の内側、八掛との縫い目付近
  • 帯の場合は、たれ先の裏や仕立ての内側

形状は作り手によって異なり、朱色の印章、墨書きの署名、生地に直接染め抜いたものなど、さまざまです。仕立て済みの着物では、たたんだ状態では見えない位置に入っていることもあるため、広げて裏側まで確認する必要があります。

ただし、落款があれば作家物と確定するわけではありません。落款は製作者の表示であって、公的な認証ではないためです。押印の有無だけで真贋や価値を判断するのは避け、あくまで手がかりのひとつとして扱うのが妥当といえます。

証紙・共箱・書類という裏づけ

落款以外にも、着物の出どころを示す材料はあります。

証紙は、産地の織物組合などが産地や品質を証明するために発行するものです。伝統的工芸品に指定された品目には、指定の技法・原材料で作られたことを示す証紙が付きます。反物に貼られた形で保管されていることもあれば、仕立ての際に切り取られ、たとう紙の中や書類と一緒に残っていることもあります。

共箱は、作品と一緒に納められた桐箱などを指します。箱書きに作者名や作品名が記されていれば、由来をたどる材料になります。

購入時の書類も見落とせません。呉服店の明細、仕立て時の寸法書き、鑑定書のたぐいがあれば、購入時期や取扱店が分かります。

これらを整理すると、次のようになります。

手がかり 何が分かるか 注意点
落款 作り手の表示 公的な認証ではない。位置が分かりにくいことがある
証紙 産地・技法・組合の証明 仕立て時に切り取られ紛失していることが多い
共箱・箱書き 作者名、作品名、納品の経緯 箱と中身が入れ替わっている場合がある
購入時の書類 購入時期、取扱店、寸法 保管場所が着物と別になりやすい
生地・仕立て 素材(正絹か否か)、手縫いか機械縫いか 判断には経験が要る

いずれか一つで確定するものではなく、複数の材料を突き合わせて判断していくことになります。分からないまま自己判断で処分してしまうより、着物を扱う専門の店で見てもらうほうが確実です。

状態と寸法|評価を分ける実務的な条件

作家物であっても、実際の評価は状態と寸法に左右されます。査定で見られるのは、主に次の点です。

  • 状態:変色(黄変)、カビ、シミ、虫食い、折りジワの有無。染めの着物では、金彩や箔の剥がれも確認されます
  • 寸法:身丈(肩山から裾まで)と裄(背中心から袖口まで)の長さ、縫込みが残っているか
  • 付属品:落款、証紙、共箱、購入時の書類が揃っているか
  • 仕立て:手縫いか機械縫いか、裏地の質

保管の際は、湿気を避けることが基本になります。たとう紙に包み、桐箱や桐箪笥に入れ、年に何度か風を通す。直射日光は変色の原因になるため、干す場合は風通しのよい日陰を選びます。

汚れが気になっても、自分でシミ抜きを試すのは避けたほうが無難です。絹は水や摩擦に弱く、かえって状態を悪くすることがあります。染めの着物では、染料がにじむおそれもあります。

なお、金額については、状態・寸法・付属品の有無で大きく変わるため、一律の目安を示すのは難しいところです。現物を見てもらったうえで、金額の根拠を確認するのが確実といえます。

よくある質問

本郷大田子はどのような作り手ですか。

公式サイトによれば、『虹染』という染色表現で知られる京都の作り手です。虹染は初代・本郷大田子が創始した技法とされ、昭和50年4月11日に京都府から「創意工夫発明功労賞」を授与されています。二代目は1986年に襲名しました。

参考:「本郷大田子 HONGOH TAIDENSHI」|本郷大田子公式サイト

虹染とはどのような染めですか。

公式サイトの説明では、臈纈染めの技法による文様展開と、多色のぼかし染による地色の変化を組み合わせた染色表現とされています。地色を背景ではなく表現の中心に据えている点が独創性として挙げられています。

落款はどこにありますか。

衽の裏側や褄下のあたり、裾の内側など、たたんだ状態では見えにくい位置に入っていることが多いとされます。広げて裏側まで確認してみてください。ただし、落款は製作者の表示であり、公的な認証ではありません。

証紙がないと価値が分かりませんか。

証紙は裏づけのひとつですが、仕立ての際に切り取られて紛失していることは珍しくありません。落款、共箱、購入時の書類、生地や仕立ての様子など、複数の材料から判断されます。

買取に出す前にクリーニングしたほうがよいですか。

必須ではありません。着物専門のクリーニングは費用がかかり、査定額を上回ってしまうこともあります。自分でシミ抜きを試すのも、生地を傷めるおそれがあるため避けたほうが無難です。

まとめ

本郷大田子と虹染について、公式サイトで確認できる内容を整理し、作家物の着物の見分け方をまとめました。要点は次の3つです。

  • 『虹染』は初代・本郷大田子が十数年をかけて発明した染色技法とされ、昭和50年4月11日に京都府から創意工夫発明功労賞を授与されている。二代目の襲名は1986年
  • 虹染の特徴は、臈纈染めによる文様と、多色のぼかし染が生む地色の変化にある。地色を表現の中心に据えた点が、京友禅の中でも特異とされる
  • 作家物かどうかは、落款・証紙・共箱・購入時の書類・生地や仕立てといった複数の材料を突き合わせて判断する。落款は公的な認証ではないため、それ単独で真贋や価値を決めることはできない

手元の着物を確かめるなら、まず広げて裏側の落款を探し、たとう紙の中に証紙や書類が残っていないかを見てみてはいかがでしょうか。手がかりが揃えば、次にどうするかの判断もしやすくなります。