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イチローズモルトの種類を整理|シリーズごとの違いと価値が分かれるポイント

イチローズモルトは、埼玉県秩父市の秩父蒸溜所でつくられている国産ウイスキーです。ただ「イチローズモルト」とひとくくりに呼ばれていても、店頭で見かける定番品と、限られた数だけ流通する限定品では、位置づけがまったく違います。この記事では、イチローズモルトの種類がどのように分かれているのかを系統ごとに整理し、種類によって中古市場での評価が変わる理由、手放すときに確認しておきたい点までまとめました。

※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。本記事は飲酒を勧めるものではありません。

イチローズモルトとはどんなウイスキーか|羽生から秩父へ

イチローズモルトは、株式会社ベンチャーウイスキーが埼玉県秩父市で操業する秩父蒸溜所を拠点につくっているウイスキーのブランドです。

ここで押さえておきたいのは、イチローズモルトが「単一の商品名」ではなく「複数のシリーズを束ねるブランド名」だという点です。同じラベルデザインの系統でも中身の構成が違い、ボトルによってはブレンデッド(モルトとグレーンの混合)だったり、シングルモルトだったりします。種類を理解するうえでは、まずこの階層を分けて考えると整理しやすくなります。

そして、シリーズが複数に分かれている背景には、このブランドが生まれた経緯そのものが関わっています。

400樽の原酒を引き取るところから始まった

JAちちぶが2016年8月時点の取材としてまとめた記事によれば、ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎(あくと いちろう)社長の実家は1625年から続く日本酒の酒造で、1980年代に祖父が羽生市に羽生蒸溜所をつくり、スコットランド方式のウイスキーを製造していました。その後ウイスキーの需要が下がり、父の会社の経営は関西の会社へ引き継がれることになります。

同記事によると、経営譲渡先の方針で、約20年造り続けた400樽のウイスキー原酒は廃棄されることになりました。肥土さんはこの原酒を守るため買い取り先を探し、福島県郡山市の笹の川酒造が「廃棄は業界の損失だ」として樽を預かることになったとされています。肥土さん自身が原酒を買い取り、同酒造の一角を借りて、2005年5月に「イチローズモルト」として販売を始めました。

参考:「秩父から世界へ『ベンチャーウィスキー』」|JAちちぶ

「イチローズモルトには、もう手に入らない蒸溜所の原酒を使ったシリーズがある」と言われるのは、この成り立ちによるものです。ブランドの出発点が、閉じた蒸溜所の原酒を引き継いだところにあります。

秩父蒸溜所の立ち上げ

同社の創業は2004年9月です。同記事によれば、2007年に秩父蒸溜所を立ち上げるため国税庁にウイスキーの製造販売の免許を申請し、2008年2月に免許が交付されました。蒸溜所の用地は県から借り、施設の建設費は親戚を頼ったとされ、記事の時点では同社の所有になっていると記されています。

秩父にした理由として、同記事は土地探しがスムーズだったことと、自然が豊かで空気や水がきれいで製造に適した環境であることを挙げています。なお、記事が取材された2016年8月時点の規模は、年間出荷量が約16万本(700ml換算)、社員数13人と記載されています。現在の数値は変わっている可能性があるため、あくまで当時の状況として捉えてください。

つまり、イチローズモルトには「羽生蒸溜所から引き継いだ原酒」と「2008年以降に秩父蒸溜所で造られた原酒」という2つの源流があります。この違いが、後述するシリーズの分かれ方に直結しています。

なお、日本国内で酒類を販売するには酒税法に基づく免許が必要で、国税庁は免許の区分や手続をまとめて公開しています。取扱店を選ぶ際の前提として知っておくと役に立ちます。

参考:「酒類の免許」|国税庁

イチローズモルトの種類は大きく3つの系統に分かれる

イチローズモルトの商品は、おおまかに次の3つの系統に分けて考えると全体像がつかめます。

系統 位置づけ 中身の傾向 流通量の傾向
リーフラベル(リーフシリーズ) 定番ラインナップ ブレンデッド/ブレンデッドモルトが中心 比較的手に入りやすい
秩父蒸溜所名義のシングルモルト 蒸溜所単独の原酒を使った限定リリース シングルモルト 少量・不定期
カードシリーズ 羽生蒸溜所から引き継いだ原酒を使った限定シリーズ シングルカスク中心 すでに終売、市場流通のみ

「種類が知りたい」と検索する方の多くは、この3つのどれを見ているのかがはっきりしないまま情報を集めてしまいがちです。ラベルの意匠が似ていても系統が違えば、飲み口も、中古市場での扱われ方も変わります。

定番の「リーフラベル」に含まれる主な種類

リーフラベル(リーフシリーズ)は、木の葉をかたどった意匠が特徴の定番ラインナップです。酒販店で比較的見つけやすいのはこの系統で、イチローズモルトの入り口として扱われることが多くなっています。

主な構成は次のとおりです。ラインナップは時期によって入れ替わることがあるため、購入時・売却時にはボトルの表示で確認してください。

商品名 略称 系統上の位置づけ
モルト&グレーン ホワイトラベル 定番の中心。モルトとグレーンを合わせたブレンデッド
ミズナラウッドリザーブ MWR ミズナラ樽由来の香りを軸にしたブレンデッドモルト
ワインウッドリザーブ WWR ワイン樽由来の風味を軸にしたブレンデッドモルト
ダブルディスティラリーズ D.D 2つの蒸溜所の原酒を組み合わせたブレンデッドモルト
モルト&グレーン クラシカルエディション ホワイトラベルより上位に位置づけられる黒ラベル
リミテッドエディション 数量を絞って出される上位品

同じリーフラベルでも、日常的に流通しているものと、数量が限られるものでは市場での評価がはっきり分かれます。ボトルの正面に書かれた名称と略称(MWR、WWR、D.D など)を確認しておくと、種類の取り違えを防げます。

秩父蒸溜所名義のシングルモルト

もう一つの系統が、秩父蒸溜所でつくられた原酒だけを使ったシングルモルトです。こちらは樽の種類や熟成の条件ごとに少量ずつリリースされる性格が強く、リーフラベルのように常時流通しているわけではありません。

シングルモルトとは、ひとつの蒸溜所で、大麦麦芽(モルト)だけを原料としてつくられたウイスキーを指す呼び方です。スコッチの場合は英国の Scotch Whisky Regulations 2009 で「単一の蒸溜所において、水と大麦麦芽のみを原料としてポットスチルで蒸溜されたもの」と定義されており、ほかの穀物を加えないことが条件になっています。日本のウイスキーは同じ規則の対象ではありませんが、「シングルモルト」という語の中身の考え方自体は共通しています。

参考:「The Scotch Whisky Regulations 2009, Regulation 3」|legislation.gov.uk

この系統は、リリースごとに樽の構成や本数が異なるため、同じ「秩父」の名を冠していてもボトルごとに条件が違います。売却を考える場合は、ラベルに書かれた樽の種類やボトリング年の表記を控えておくと、査定時のやり取りがスムーズになります。

秩父蒸溜所でのつくり方

前出のJAちちぶの記事には、2016年8月時点の秩父蒸溜所の製造工程も記されています。ボトルごとの違いがどこから生まれるのかを理解する手がかりになるため、記載されている内容を整理しておきます。

工程 記事に書かれている内容
糖化 温度の違う温水を3回に分けて加え、1番麦汁と2番麦汁を発酵槽へ移す
発酵 東北のミズナラの木でつくった特注の発酵槽を使い、4日間発酵させる
蒸留 スコットランドの老舗に希望を伝えた特注の銅製ポットスチルで2回蒸留し、ハートのみを使う
熟成 3年以上寝かせ、風味の良くなったものだけを商品化する
シェリー酒・バーボン・ワインなどの空樽数種と、ミズナラの木を使った自社製の樽

樽の種類が複数あるということは、同じ蒸溜所の原酒でも仕上がりが分かれるということです。秩父蒸溜所名義のシングルモルトが少量ずつ、条件を変えてリリースされてきたのは、この造り分けが前提にあるためだといえます。

原料の二条大麦については、同記事によれば、ドイツ・イングランド・スコットランドで製麦したものを使うほか、秩父市吉田地域で栽培されJAちちぶが乾燥調製した二条大麦を買い取り、自社で製麦したものも使っているとされています。記事の時点では、同地域産の二条大麦のみで製麦したウイスキーを新たに仕込み、3年以上熟成させて納得のいく仕上がりになったときに販売する予定とも書かれています。

参考:「秩父から世界へ『ベンチャーウィスキー』」|JAちちぶ

カードシリーズは「終売した蒸溜所の原酒」という位置づけ

カードシリーズは、トランプの絵柄をあしらったラベルで知られる限定シリーズです。前述のとおり、このブランドの出発点は、閉じることになった羽生蒸溜所の原酒を引き継いだところにあります。カードシリーズはその原酒を使ったもので、追加生産ができません。

このシリーズが早い段階から注目された経緯も、JAちちぶの記事に記されています。同記事によれば、カードシリーズの「キング オブ ダイヤモンズ」は、2006年に英国のウイスキー専門誌『ウイスキーマガジン』のジャパニーズモルト特集で最高得点の「ゴールドアワード」に選ばれました。また同社は「ワールド・ウィスキー・アワード」で2007年以降5年連続でカテゴリー別日本一になったとされています。

参考:「秩父から世界へ『ベンチャーウィスキー』」|JAちちぶ

供給が完全に止まっている以上、市場に出回っている本数は減ることはあっても増えません。この「もう増えない」という構造と、早い時期に評価が定まったことが重なって、カードシリーズは特別な扱いを受けています。ただし、絵柄ごとにボトリングの条件が異なるため、シリーズ全体をひとまとめに語ることはできません。個別のボトルの内容は、ラベルの表記で確認する必要があります。

なお、希少性が高い銘柄ほど、外観だけを似せた模倣品が市場に混ざるリスクも上がります。購入・売却のいずれの場面でも、入手経路がはっきりしているかどうかは重視されます。

「ジャパニーズウイスキー」表示基準との関係

種類を整理するうえで、もう一つ知っておくと役に立つのが、日本洋酒酒造組合が定めた「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」です。2021年2月12日に制定され、2021年4月1日から施行されました。

この基準で「ジャパニーズウイスキー」と表示するために求められている製法品質の要件は、要約すると次のとおりです。

  • 原材料は麦芽・穀類・日本国内で採水された水に限られ、麦芽は必ず使うこと
  • 糖化、発酵、蒸留を日本国内の蒸留所で行い、留出時のアルコール分は95度未満とすること
  • 内容量700リットル以下の木製樽に詰め、詰めた日の翌日から起算して3年以上、日本国内で貯蔵すること
  • 日本国内で容器詰めし、充填時のアルコール分を40度以上とすること
  • 色調の微調整のためのカラメルの使用は認められること

なお、2021年3月31日以前から特定の用語を表示してきた商品については、2024年3月31日までの経過措置が設けられていました。

イチローズモルトのように複数の系統を持つブランドでは、商品ごとに原酒の構成が異なります。そのため、同じブランドでも「ジャパニーズウイスキー」と表示されるものと、そうでないものが並び得ます。ラベルの表示は、その一本がどういう成り立ちのウイスキーなのかを示す手がかりになります。

参考:「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」|日本洋酒酒造組合

手放す前に知っておきたいこと|評価が分かれる理由と確認事項

種類によって評価が分かれる理由

同じイチローズモルトでも、中古市場での扱われ方に差が出るのは、次のような要素が重なるためです。

  • 追加生産の可否:終売した原酒を使ったものは供給が増えません。一方、定番品は継続して出荷されます。
  • リリース単位の規模:数量を絞ったリリースほど、市場に出る本数が限られます。
  • 保存状態:液面の低下、ラベルの傷み、キャップの緩みは評価に影響しやすい要素とされています。
  • 付属品の有無:化粧箱やタグが揃っているかどうかも見られます。
  • 真贋の判断材料:入手経路や購入時の記録が残っているかは、確認作業の負担に直結します。

相場は時期や需要によって動きます。特定の種類が「必ずいくらになる」と言い切れるものではないため、金額はあくまで目安として捉えるのが現実的です。複数の業者に見てもらい、査定額の根拠を確認するほうが納得しやすいでしょう。

買取業者に必要な免許・許可

ウイスキーを買い取ってもらう場面では、相手方の業者がどのような許可・免許を持っているかが関係します。

まず、酒類の販売業を行うには、酒税法に基づき、販売場ごとにその所在地の所轄税務署長から酒類販売業免許を受ける必要があります。国税庁の手引では、販売業免許を受けずに酒類の販売業を行った場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処されるとされています。買い取った酒類を再び販売する事業者は、この免許の対象になります。

参考:「一般酒類小売業免許申請の手引」|国税庁

もう一つが古物営業法です。同法では、一度使用された物品などを「古物」と定め、古物を売買する営業を営もうとする者は都道府県公安委員会の許可を受けなければならないと規定しています(第2条・第3条)。無許可で営業した場合は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と定められています(第31条)。また、古物商が古物を買い受ける際には、相手方の住所・氏名・職業・年齢を確認するなどの措置をとる義務があります(第15条)。買取時に本人確認書類の提示を求められるのは、この規定によるものです。

参考:「古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)」|e-Gov法令検索

個人が手持ちの一本を手放すだけであれば、通常は自分が免許を取る話にはなりません。ただし、継続的・反復的に酒類を売る形になると販売業に当たる可能性があります。判断に迷う場合は、所轄税務署の酒類指導官に相談するのが確実です。

よくある質問

イチローズモルトの種類はいくつあるのですか

定番のリーフラベル、秩父蒸溜所名義のシングルモルト、カードシリーズという3つの系統に分けて考えるのが分かりやすい整理です。ただし限定リリースが随時加わるため、「全部でいくつ」と固定した数で答えられる性格のものではありません。

「イチローズ」とは何のことですか

ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎(あくと いちろう)社長の名前に由来しています。同社は2004年9月に創業し、2005年5月に「イチローズモルト」として販売を始めたとJAちちぶの記事に記されています。

秩父蒸溜所はいつからウイスキーをつくっているのですか

JAちちぶの記事によれば、2007年に秩父蒸溜所を立ち上げるため国税庁にウイスキーの製造販売の免許を申請し、2008年2月に交付されました。それ以前に販売されていたものは、羽生蒸溜所から引き継いだ原酒によるものです。

ホワイトラベルとクラシカルエディションはどう違いますか

どちらもモルトとグレーンを合わせた「モルト&グレーン」の系統ですが、ラベルの色(白と黒)で区別されており、クラシカルエディションのほうが上位に位置づけられています。詳細はボトルの表示で確認してください。

MWR・WWR・D.D は何の略ですか

MWR はミズナラウッドリザーブ、WWR はワインウッドリザーブ、D.D はダブルディスティラリーズの略として使われています。いずれもリーフラベルの系統に含まれます。

未開封で長期保管していたボトルでも買い取ってもらえますか

未開封であることは前提として扱われることが多い一方で、液面の低下やラベルの状態は査定で見られます。直射日光や高温を避けた場所で保管されていたかどうかも確認されます。状態によっては評価が下がることもあるため、事前に写真を撮って相談するとやり取りが早く進みます。

箱がなくても売れますか

箱がなくても取り扱ってもらえる場合はありますが、化粧箱や付属のタグが揃っているほうが評価されやすい傾向があります。処分してしまう前に、まとめて残しておくことをおすすめします。

買取価格の相場を事前に知る方法はありますか

公表されている相場表はあくまで目安です。同じ銘柄でも状態や時期によって差が出るため、複数の業者に査定を依頼して、金額の根拠を聞き比べるのが現実的な方法です。

まとめ

イチローズモルトの種類は、定番のリーフラベル、秩父蒸溜所名義のシングルモルト、追加生産のできないカードシリーズという3つの系統に分けると理解しやすくなります。リーフラベルの中でも、ホワイトラベル、MWR、WWR、D.D、クラシカルエディション、リミテッドエディションといった区分があり、同じブランド名でも中身の成り立ちは一様ではありません。

シリーズがこう分かれているのは、このブランドに「羽生蒸溜所から引き継いだ原酒」と「2008年に免許を得た秩父蒸溜所で造られた原酒」という2つの源流があるためです。成り立ちを押さえておくと、手元のボトルがどちらに属するのかも見当をつけやすくなります。

種類によって市場での評価が分かれるのは、追加生産の可否とリリース規模、そして保存状態や付属品の有無が重なるためです。金額は時期によって動くものなので、相場はあくまで目安として捉えたうえで、手元のボトルのラベル表記と状態を整理してから相談に進むとよいでしょう。買取を依頼する際は、相手方が酒類販売業免許と古物商許可を備えているかも合わせて確認しておくと安心です。