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着物買取のトラブルを防ぐには|押し買いの手口と法律で決まっているルール

「着物を買い取ります」と電話があり、来てもらったら貴金属まで持っていかれた。査定を頼んだだけなのに、業者が居座ってなかなか帰らない。着物の買取をめぐっては、こうした相談が今も国民生活センターに寄せられています。この記事では、実際に報告されている手口を確認したうえで、特定商取引法が事業者に課しているルール、8日間のクーリング・オフと引渡し拒絶権、そして困ったときの相談先までを整理します。

着物買取で起きやすいトラブル

まず、どういう形でトラブルが起きているのかを見ておきます。国民生活センターの消費者トラブル解説集には、次のような情報が寄せられていると記載されています。

  • 不要な靴をリサイクルするという業者と電話で訪問の約束をした。いざ来訪すると、「貴金属はないか」としつこく居座られた。
  • 着物の買い取りに来た業者が「査定結果の連絡待ちだ」と言って、数時間帰らない。その間に「不要な貴金属はないか?」と聞かれ、安く買い取られてしまった。
  • 貴金属はないと伝えたら、大声で怒鳴られ怖い思いをした。

参考:「訪問購入(訪問買い取り)のトラブルを防ぐには」|国民生活センター

着物の買取をきっかけに、話が貴金属へ移っていく構図が共通しています。国民生活センターの「各種相談の件数や傾向」のページでも、訪問購入について「不用品や和服の買い取りのはずが貴金属を買い取られた」といった相談が寄せられていると説明されています。

PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された訪問購入の相談件数は、2023年度が8,623件、2024年度が7,909件、2025年度が7,523件と記録されています(2026年度は5月31日現在で826件)。年間数千件規模で相談が続いている状況です。

参考:「訪問購入(各種相談の件数や傾向)」|国民生活センター

このほか、着物買取では次のようなトラブルも指摘されています。

  • 買い叩き:価値のある着物に対し、著しく低い金額を提示される
  • 抱き合わせ:着物の査定と称して訪問し、他の品目の買取を持ちかけられる
  • 書面がない:契約書面を受け取っておらず、誰に何をいくらで売ったのか記録が残らない
  • 宅配買取での行き違い:査定額に納得できず返送を求めたが応じてもらえない、返送料の負担が事前の説明と違う

「押し買い」と訪問購入の法規制

自宅に業者が来て物品を買い取る取引は、法律上「訪問購入」と呼ばれます。「訪問買い取り」「押し買い」と呼ばれることもあります。

国民生活センターの解説によれば、2013年2月に特定商取引に関する法律(特商法)が改正され、規制対象に「訪問購入」が加えられました。この法律には、購入業者が守るべきルールと、消費者を保護する制度が定められています。

消費者庁の特定商取引法ガイドでは、訪問購入は「購入業者が、店舗等以外の場所(例えば、消費者の自宅等)で契約を締結等して行う物品の購入」と定義されています(法第58条の4)。

参考:「訪問購入」|特定商取引法ガイド(消費者庁)

重要なのは、これが「マナー」ではなく法律上の義務だという点です。以下、事業者に課されているルールを条文ごとに整理します。

事業者に課されているルール

規制 条文 内容
氏名等の明示 法第58条の5 勧誘に先立ち、事業者の氏名(名称)、契約締結について勧誘する目的であること、購入しようとする物品の種類を告げなければならない
不招請勧誘の禁止 法第58条の6第1項 勧誘の要請をしていない者に対し、自宅等で契約締結について勧誘し、または勧誘を受ける意思の有無を確認してはならない
再勧誘の禁止等 法第58条の6第2項・第3項 勧誘に先立ち勧誘を受ける意思があることを確認しなければならない。相手方が契約締結の意思がないことを示したときは、その訪問時に勧誘を継続することも、その後改めて勧誘することも禁止
書面の交付 法第58条の7、第58条の8 申込みを受けたとき・契約を締結したときに、法定の記載事項を含む書面を渡さなければならない
引渡し拒絶に関する告知 法第58条の9 クーリング・オフ期間内に直接物品の引渡しを受けるときは、引渡しを拒むことができる旨を告げなければならない
禁止行為 法第58条の10 事実と違うことを告げる、故意に事実を告げない、威迫して困惑させる行為などの禁止
第三者への引渡しの通知 法第58条の11 引渡しを受けた物品をクーリング・オフ期間内に第三者へ引き渡したときは、遅滞なく相手方に通知しなければならない

参考:「訪問購入」|特定商取引法ガイド(消費者庁)

特に押さえておきたいのが不招請勧誘の禁止です。消費者庁は「いわゆる飛込み勧誘や、単に相手方から査定の依頼があった場合に、査定を超えて勧誘を行うことは、法に抵触することになります」と明記しています。

国民生活センターも、禁止される訪問・勧誘の例として次を挙げています。

  • 消費者から勧誘の要請がないのに、突然訪問して勧誘すること(不招請勧誘)
  • 査定のみ依頼したのに、訪問のついでに買い取りも勧誘すること
  • 事前の約束とは違う物品について、買い取りの勧誘をすること(例:衣類の買い取りといって訪問したのに、貴金属の買い取りの勧誘をする)
  • 事業者名、買い取る物品の種類、勧誘の目的を明示せずに勧誘すること
  • 消費者が断った場合に、居座ることや、再勧誘をすること

「着物の査定をお願いしただけなのに、貴金属の話を持ちかけられた」という状況は、法律上問題のある行為にあたる可能性があるということです。

書面の記載事項も法定されています。物品の種類、購入価格、代金の支払時期・方法、物品の引渡時期・方法、申込みの撤回(契約の解除)に関する事項、物品の引渡しの拒絶に関する事項、事業者の氏名・住所・電話番号、担当者の氏名、契約の年月日、物品名、物品の特徴などです。書面をよく読むべきことを赤枠の中に赤字で記載しなければならず、クーリング・オフと引渡し拒絶に関する事項も赤枠の中に赤字で記載することが求められています。文字の大きさは8ポイント以上と定められています。

8日間のクーリング・オフと引渡し拒絶権

訪問購入で契約してしまった場合の救済策が、クーリング・オフです。

消費者庁の説明によれば、訪問購入では、法律で決められた書面を受け取った日から数えて8日以内であれば、書面または電磁的記録により申込みの撤回や契約の解除ができます(法第58条の14)。

さらに、事業者がクーリング・オフに関する事項について事実と違うことを告げたり威迫したりしたことで、消費者が誤認・困惑してクーリング・オフしなかった場合には、8日を過ぎていてもクーリング・オフができるとされています。

クーリング・オフを行った場合、すでに物品を引き渡していたり代金を受け取っていたりする場合には、事業者の負担で物品を返却してもらったり代金を返却したりできます。代金の利息を返す必要はなく、損害賠償や違約金を支払う必要もありません。

証拠を残す方法についても言及があります。書面の場合は特定記録郵便、書留、内容証明郵便等で行うことが勧められ、電磁的記録の場合は送信したメールを保存する、専用フォームなら画面のスクリーンショットを残すなど、証拠を保存しておくことが望ましいとされています。

そしてもうひとつ、実務上とても重要なのが引渡し拒絶権です。法第58条の15により、売買契約の相手方は、クーリング・オフ期間内は債務不履行に陥ることなく、事業者に対して物品の引渡しを拒むことができます。

国民生活センターはこれを踏まえ、「売却の契約をしても、その場ですぐに物品を引き渡す必要はありません」と説明しています。その場で着物を持ち出させないことが、被害を最小限に抑える最大のポイントだといえます。一度持ち去られてしまうと、第三者に転売されるなどして取り戻しが難しくなる場合があるためです。

ただし、一部の物品は訪問購入の規定が適用されません。国民生活センターは、対象外となるものとして「2輪以外の自動車、家具、大型家電、本・CD・DVD・ゲームソフト類、有価証券」を挙げています。着物はこれらに含まれないため、訪問購入のルールが適用されます。

高齢者を狙った深刻な事例も報告されている

国民生活センターは2024年9月18日に、「きっかけは訪問購入?犯罪まがいの深刻なトラブルにご注意を!」と題する注意喚起を公表しています。

そこには、次のような相談事例が挙げられています。

  • ふと目を離した隙に金のネックレスやダイヤの指輪などを業者に持ち去られたようだ。
  • 人の役に立つならと思い訪問を了承したが、業者が帰った後指輪がなくなっていた。
  • 身に着けていた母の形見の指輪を業者から強引に要求され怖い思いをした。
  • 一人暮らしの認知症の母親が記念硬貨を安値で買い取られていた。

相談事例からみる問題点として、犯罪まがいの行為が行われる深刻な事例がみられること、特定商取引法違反の疑いがある行為が行われていること、消費者の親切心に訴えかけるなどして断りにくくした上で勧誘を行っていること、判断力の低下した高齢者がトラブルにあっていることが指摘されています。事例をみると主に80歳以上の女性が当事者となっている、とも述べられています。

参考:「きっかけは訪問購入?犯罪まがいの深刻なトラブルにご注意を!」|国民生活センター

同センターの消費者へのアドバイスは明快です。

  • 突然訪問してきた購入業者は決して家に入れないようにしましょう。
  • 購入業者から電話がかかってきても、安易に訪問を承諾しないようにしましょう。
  • 購入業者から勧誘を受けて訪問を承諾する場合は、一人では対応しないようにしましょう。
  • トラブルになった場合や不安がある場合は、消費生活センターや警察に相談しましょう。

また、高齢者の消費者トラブルを防ぐには、周囲が日頃から生活や言動、態度の変化に気づくことが重要だとし、消費生活センター等への相談は家族やホームヘルパー、地域包括支援センターなどの職員からでも可能だと案内しています。

トラブルを防ぐための具体的な行動

以上を踏まえて、実際にとれる行動をまとめます。

自分から業者を選ぶ。 向こうから来た話に乗るのではなく、自分で調べて依頼するのが基本です。国民生活センターは「業者の訪問の際は、不要な勧誘はきっぱり断り、売るつもりのない貴金属やブランド品などを安易に見せることは避けましょう」と説明しています。

電話での訪問承諾を安易にしない。 「不用品を引き取る」といった電話をきっかけにトラブルが起きています。承諾する前に、事業者名、買い取る物品の種類、勧誘の目的を確認してください。

一人で対応しない。 家族や知人に同席してもらうだけで、その場の圧力はかなり下がります。

売るつもりのないものは出さない、見せない、触らせない。 着物の査定を依頼したなら、着物だけを出します。別の品目の話が出たら、それは不招請勧誘にあたる可能性があります。

その場で引き渡さない。 引渡し拒絶権があります。契約したとしても、8日間は渡さずに手元に置いておけます。

書面を必ず受け取り、保管する。 書面がなければ、そもそもクーリング・オフの起算日が始まりません。事業者名、住所、電話番号、担当者名、買取価格、物品名が書かれているかを確認してください。

複数社に査定してもらう。 買い叩きを防ぐには、比較が一番の対策です。着物は査定士の知識によって評価が変わりやすい品目でもあります。

その場で結論を出さない。 「今日だけの価格」「今決めてくれれば」といった話は、判断を急がせるための言葉である可能性があります。

宅配買取では条件を先に確認する。 査定額に納得できない場合の返送料の負担、キャンセル可能な期限、配送事故が起きたときの補償について、送る前に確認しておくと行き違いを避けられます。

なお、買取価格は素材・状態・寸法・市場動向によって変動します。「必ず高く売れる」「最高額を保証する」といった説明をする業者には、慎重に対応したほうがよいでしょう。

困ったときの相談先

トラブルになった場合、あるいは不安を感じた場合の相談先は次のとおりです。

  • 消費者ホットライン「188(いやや!)」:住んでいる地域の消費生活センター等を案内してくれる全国共通の3桁の電話番号です。
  • 警察相談専用電話「#9110」:生活の安全に関わる悩みごと・困りごとなど、緊急でない相談を警察にする場合の全国統一番号です。電話をかけると発信地を管轄する警察本部等の相談の総合窓口に接続されます。
  • 緊急性が高い場合は110番通報を検討してください。

参考:「きっかけは訪問購入?犯罪まがいの深刻なトラブルにご注意を!」|国民生活センター

なお、行政規制に違反した事業者は、業務改善の指示(法第58条の12第1項)や業務停止命令(法第58条の13第1項前段)、役員等の業務禁止命令(法第58条の13の2第1項)等の行政処分の対象となるほか、一部は罰則の対象にもなるとされています。

よくある質問

自分から依頼して来てもらった場合もクーリング・オフできますか

できます。クーリング・オフは、自分から呼んだかどうかにかかわらず、訪問購入に該当すれば適用されます。法律で決められた書面を受け取った日から数えて8日以内であれば、書面または電磁的記録で申込みの撤回や契約の解除ができます。

査定だけのつもりが、買取の話を持ちかけられました。断ってよいのですか

断って構いません。消費者庁は「単に相手方から査定の依頼があった場合に、査定を超えて勧誘を行うことは、法に抵触することになります」としています。断ったにもかかわらず居座る、再度勧誘するといった行為も禁止されています。

すでに着物を持ち帰られてしまいました。取り戻せますか

クーリング・オフ期間内であれば、契約を解除することで事業者の負担により物品を返却してもらうことができます。ただし、第三者に引き渡されている場合など、状況によって対応が変わります。まずは消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談してください。書面や業者とのやり取りの記録があれば、あわせて用意しておくとよいでしょう。

書面をもらっていない場合はどうなりますか

法律上、事業者には書面を交付する義務があります。書面を受け取っていない場合、クーリング・オフの起算日が始まらないと考えられます。書面がないこと自体が法違反にあたる可能性もあるため、消費生活センターへの相談をおすすめします。

宅配買取や店頭買取にもクーリング・オフはありますか

訪問購入の規定は「店舗等以外の場所」で契約を締結する取引を対象としています。店頭に自分で持ち込んで売却した場合は訪問購入にあたりません。宅配買取についても、訪問購入の規定がそのまま適用されるとは限りません。宅配買取を利用する際は、キャンセル可能な期限や返送料の扱いを事前に確認し、契約条件を書面やメールで残しておくことが実務的な対策になります。判断に迷う場合は消費生活センターに確認してください。

まとめ

着物買取のトラブルは、「着物の買い取り」をきっかけに貴金属など別の品目へ話が広がっていく形が典型です。国民生活センターには、居座られた、しつこく聞かれた、怒鳴られたといった相談が実際に寄せられており、訪問購入に関する相談は年間数千件規模で続いています。

一方で、訪問購入には法律上のルールがあります。勧誘の要請をしていない人への勧誘は禁止され(不招請勧誘の禁止)、断った相手への再勧誘も禁止されています。契約後は書面を受け取った日から8日以内であればクーリング・オフができ、その期間中は物品の引渡しを拒むこともできます。

実務的にもっとも効くのは、「突然の訪問は家に入れない」「売るつもりのないものは見せない」「その場で引き渡さない」「書面を必ず受け取る」の四点です。そして、少しでも不安を感じたら、消費者ホットライン188に相談してください。一人で判断せず、家族や第三者を交えて進めることが、結果的にいちばん安全な進め方だといえます。