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買取のトラブルを防ぐには|法律で決まっているルールと、起きたときの対処法

不要になった着物や貴金属を売ろうと思ったとき、気になるのは「トラブルにならないだろうか」ということではないでしょうか。強引に売らされた、思っていた金額と違った、返してほしいと言っても応じてもらえない。こうした相談は、実際に全国の消費生活センターへ寄せられています。この記事では、買取取引で起きやすいトラブルの型を整理したうえで、法律で事業者に課されているルールと、トラブルが起きたときの具体的な対処法をまとめます。

買取トラブルの相談は、年間7,000件を超えている

まず、実際にどれくらいの相談があるのかを確認しておきます。

国民生活センターは、全国の消費生活センター等に寄せられた相談を集計したPIO-NETのデータを公表しています。事業者が消費者の自宅などを訪れて物品を買い取る「訪問購入」に関する相談件数は、次のとおりです。

年度 相談件数
2023年度 8,623件
2024年度 7,909件
2025年度 7,523件
2026年度 826件

※2026年5月31日までの集計

参考:「訪問購入(各種相談の件数や傾向)」|国民生活センター

年間7,000件から8,000件台という水準が続いています。同センターは、相談事例に見られる問題として、不要品買取と称するネット広告や訪問による勧誘での不当な対応、高額な査定金額を約束しておきながら実際には低額で買い取られるケース、消費者が納得しないまま売却させられた事例などを挙げています。

さらに同センターは2024年9月18日、「きっかけは訪問購入?犯罪まがいの深刻なトラブルにご注意を!」として注意喚起を公表しています。突然訪問されて貴金属の購入を持ちかけられた、不要な品物を無理に売却させられた、といった事例が挙げられています。

参考:「きっかけは訪問購入?犯罪まがいの深刻なトラブルにご注意を!」|国民生活センター

これらは訪問購入に限った数字です。店舗持ち込みや宅配買取まで含めれば、相談の総数はさらに多くなります。買取という取引が、それだけ相談の起きやすい領域だということです。

起きやすいトラブルの型

寄せられている相談を整理すると、トラブルはいくつかの型に分けられます。

査定額をめぐる食い違い。事前に聞いていた金額と、実際の査定額が大きく違う。ネット広告や電話で高額を示され、実際に会ってみると理由をつけて下げられる、という流れです。

頼んでいない品物まで買い取られる。着物の査定を依頼したはずが、その場で貴金属やブランド品まで出すよう求められ、まとめて持ち帰られてしまう。国民生活センターの注意喚起でも、この型の事例が繰り返し取り上げられています。

その場で決断を迫られる。「今日だけの価格」「持ち帰るなら手数料がかかる」といった説明で、検討する時間を与えられない。

品物を先に持ち帰られてしまう。契約書を受け取る前、あるいは受け取った直後に品物を渡してしまい、返してほしいと言っても応じてもらえない。

書面がない、または不十分。契約書を渡されない。渡されても品名や金額が空欄になっている。

代金が支払われない。買取は成立したのに、期日を過ぎても入金がない。

キャンセルを拒まれる。解約したいと伝えても、すでに転売した、規約でできないことになっている、と言われる。

これらのうち、訪問購入にあたる取引については、法律で明確なルールが定められています。次で見ていきます。

訪問購入には、特定商取引法のルールがある

事業者が消費者の自宅などを訪れて物品を買い取る取引は、特定商取引法の「訪問購入」にあたります。消費者庁は、これを「購入業者が、店舗等以外の場所で契約を締結して行う物品の購入」と定義しています(法第58条の4)。

事業者に課されている主な義務は、次のとおりです。

内容 条文 概要
氏名等の明示 法第58条の5 勧誘に先立ち、事業者の氏名、勧誘目的、購入しようとする物品の種類を告げなければならない
不招請勧誘の禁止 法第58条の6第1項 勧誘の要請をしていない者に対し、自宅等で勧誘してはならない
再勧誘の禁止 法第58条の6第2項・第3項 勧誘を受ける意思があるかを確認し、断られたら勧誘を続けたり、改めて勧誘したりしてはならない
書面の交付 法第58条の7・第58条の8 申込時・契約締結時に、法定の記載事項を書いた書面を交付しなければならない
引渡しの拒絶に関する告知 法第58条の9 クーリング・オフ期間内は物品の引渡しを拒むことができる旨を告げなければならない
禁止行為 法第58条の10 虚偽の告知、事実の不告知、威迫して困惑させる行為などを禁止
第三者への引渡しについての通知 法第58条の11 クーリング・オフ期間内に第三者へ引き渡したときは、その第三者の情報や引渡日などを相手方に通知しなければならない
クーリング・オフ 法第58条の14 書面を受け取った日から8日以内であれば、申込みの撤回や契約の解除ができる
物品の引渡しの拒絶 法第58条の15 クーリング・オフ期間内は、債務不履行に問われることなく物品の引渡しを拒むことができる

参考:「訪問購入」|特定商取引法ガイド(消費者庁)

このなかで、特に押さえておきたいものが3つあります。

頼んでいないのに訪ねてくる勧誘は、禁止されている

法第58条の6第1項の「不招請勧誘の禁止」は、訪問購入に特有の強いルールです。消費者庁は、購入業者は勧誘の要請をしていない者に対し、その住居において売買契約の締結について勧誘をしてはならない、と説明しています。いわゆる飛び込みの勧誘は認められていません。

つまり、こちらから依頼していないのに突然訪ねてきて買取を持ちかける行為は、それ自体が法律に反します。「近所で買取をしていまして」「不用品はありませんか」と言われた場合、応じる義務はまったくありません。

注意したいのは、依頼した品目以外への勧誘です。着物の査定を頼んだからといって、貴金属について勧誘してよいことにはなりません。依頼していない品目の勧誘は、不招請勧誘にあたる可能性があります。

クーリング・オフは8日間

法第58条の14により、契約書面を受け取った日から起算して8日以内であれば、申込みの撤回や契約の解除ができます。理由は必要ありません。

そして重要なのが、法第58条の15の「引渡しの拒絶」です。クーリング・オフができる期間内は、債務不履行の責任を問われることなく、物品を渡さないでいられます。事業者は法第58条の9により、この点をあらかじめ告げる義務があります。

品物さえ手元にあれば、取り戻す手間はかかりません。逆に、渡してしまったあとで転売されると、取り戻すのは格段に難しくなります。8日間は渡さない、というのは非常に有効な自衛策です。

書面には赤枠赤字のルールがある

消費者庁は、交付される書面の記載事項として、物品の種類、購入価格、代金の支払時期と方法、物品の引渡時期と方法、契約の申込みの撤回(契約の解除)に関する事項、事業者の氏名・住所・電話番号・代表者名、担当者氏名、契約年月日、物品名・特徴・商標・製造者名・販売者名・型式などを挙げています。

さらに、クーリング・オフに関する事項と物品の引渡しの拒絶に関する事項は、赤枠の中に赤字で記載することが必須とされ、字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上とされています。

書面を受け取ったら、まずこの赤枠を探してください。赤枠がない、あるいは記載事項が空欄になっている書面は、法律の要件を満たしていない可能性があります。

規制の対象外になる物品もある

訪問購入のルールは、すべての物品に適用されるわけではありません。特定商取引法施行令第34条により、一部の物品が規制の対象から除外されています。消費者庁が公表している具体例は次のとおりです。

番号 物品 具体例
1 自動車(二輪のものを除く)
2 家庭用電気機械器具(携行が容易なものを除く) 電気温水器、電気食器洗い機、テレビ受像機、電気冷蔵庫、エアコン、電気洗濯機、電子レンジ、プリンター、電気掃除機など
3 家具 たんす、机、いす、鏡台、ソファー、ベッド、マットレス、テーブル、棚、げた箱、金庫など
4 書籍 事典、全集物、写真集、問題集、雑誌、単行本
5 有価証券
6 レコードプレーヤー用レコード及び磁気的・光学的方法により音、影像又はプログラムを記録した物 レコード、レーザーディスク、テープ、コンパクトディスク、DVD、ブルーレイディスク、コンピューター用ソフトなど

参考:「特定商取引に関する法律施行令第34条で規定する物品の具体例」|消費者庁

この一覧を見て分かるとおり、着物、貴金属、宝石、ブランドバッグ、時計、骨董品はいずれも除外物品に含まれていません。つまり、これらを自宅で買い取る取引には、不招請勧誘の禁止も、8日間のクーリング・オフも、引渡しの拒絶権も適用されます。

一方、たんすや冷蔵庫、書籍などは規制の対象外です。「不用品を引き取ります」という名目で訪問した業者が、対象外の物品を糸口にして着物や貴金属の話に持っていく、という流れには注意が必要です。

なお、営業目的の取引、事業者の従業員を対象とする取引、いわゆる御用聞き取引や常連取引、住居の退去に際して引き渡す物品についての取引なども、法第58条の17により適用が除外されています。

古物営業法にも、事業者の義務がある

買取業者は、古物営業法に基づく古物商の許可を受けて営業しています。この法律にも、消費者に関わる義務が定められています。

相手方の確認義務。古物営業法第15条第1項は、古物商が古物を買い受けようとするときは、相手方の真偽を確認するため、相手方の住所・氏名・職業及び年齢を確認すること、あるいは相手方から署名のあるそれらを記載した文書の交付を受けること、といった措置をとらなければならない、と定めています。

つまり、身分証の提示を求められるのは、業者が勝手にやっていることではなく、法律上の義務です。逆に、身分証の確認を一切求めない業者は、この義務を果たしていない可能性があります。

帳簿等への記載義務。同法第16条は、古物を受け取り又は引き渡したときは、その都度、取引の年月日、古物の品目及び数量、古物の特徴、相手方の住所・氏名・職業及び年齢などを帳簿等に記載又は記録しておかなければならない、と定めています。

不正品の申告義務。同法第15条第3項は、買い受けようとする古物について不正品の疑いがあると認めるときは、直ちに警察官に申告しなければならない、と定めています。

参考:「古物営業法」|e-Gov法令検索(デジタル庁)

なお、対価の総額が国家公安委員会規則で定める金額未満である取引については、確認の措置をとることを要しないとされています(同法第15条第2項第1号)。この金額は原則1万円です。ただし例外があり、警視庁は令和7年10月1日施行の施行規則改正により、1万円未満であっても相手方の確認と帳簿記載が必要な物品として、エアコンディショナーの室外ユニット、電気温水機器のヒートポンプ、電線、金属製のグレーチングが追加されたと説明しています。

参考:「古物営業法施行規則の一部改正について(令和7年10月1日施行)」|警視庁

トラブルを防ぐための、具体的な準備

法律の枠組みを踏まえたうえで、実際にできる備えを整理します。

依頼する前

  • こちらから依頼していない訪問には応じない。インターホン越しに断って構いません
  • 古物商許可番号を確認する。多くの業者はサイトに掲載しています
  • 何を査定してもらうのかを、あらかじめ自分で決めておく
  • 品物の写真を撮っておく。点数、状態、特徴が分かるものを残します
  • 一人で対応せず、家族や知人に同席してもらう。難しければ、査定の時間帯を伝えておくだけでも違います

査定の場で

  • 依頼していない品目の話を持ちかけられたら、はっきり断る
  • 査定額の内訳を聞く。まとめていくら、ではなく、品物ごとの評価を確認します
  • その場で決めない。持ち帰って考える、他社にも見てもらう、と伝えて構いません
  • 契約書面を必ず受け取り、その場で内容を確認する。赤枠赤字の記載があるか、空欄がないかを見ます
  • 契約しても、8日間は品物を渡さない。これは法第58条の15で認められた権利です

契約したあと

  • 書面を受け取った日付を記録しておく。クーリング・オフの起算日になります
  • やりとりの記録を残す。日時、担当者名、言われた内容をメモしておきます
  • 8日以内に解約するなら、書面(特定記録郵便や簡易書留など、発信の記録が残る方法)で通知する

トラブルが起きたときの対処法

それでも問題が起きた場合の手順です。

1. 契約書面を確認する。受け取った日付、事業者名、住所、電話番号、品名、金額を確認します。書面がない場合、クーリング・オフの起算が始まっていないと考えられる場合があります。

2. クーリング・オフができるか確認する。書面を受け取った日から8日以内であれば、理由を問わず申込みの撤回・契約の解除ができます(法第58条の14)。通知は書面で行い、控えを取っておきます。

3. 品物がまだ手元にあるなら渡さない。法第58条の15により、クーリング・オフ期間内は債務不履行に問われることなく引渡しを拒めます。

4. 消費生活センターに相談する。消費者ホットライン「188」に電話すると、お住まいの地域の消費生活センター等を案内してもらえます。年末年始(12月29日から1月3日まで)を除き、原則毎日利用できます。土日祝日で地元のセンターが閉所している場合は、国民生活センターにつながり、受付時間は10時から16時とされています。

参考:「全国の消費生活センター等」|国民生活センター

5. 悪質な場合は警察に相談する。威迫されて困惑した、無理やり持ち去られたといった事情がある場合は、警察への相談も選択肢になります。

なお、消費者庁は、訪問購入の規制に違反した事業者に対して、業務改善の指示、業務停止命令、役員等の業務禁止命令といった行政処分が行われることがあり、一部は罰則の対象にもなると説明しています。ルールは努力目標ではなく、違反すれば処分の対象になるものです。

よくある質問

訪問買取のクーリング・オフは何日以内ですか。

特定商取引法第58条の14により、契約書面を受け取った日から起算して8日以内です。理由は必要ありません。書面を受け取っていない場合や、書面の記載に不備がある場合は、起算されていないと考えられることがあります。判断に迷う場合は消費生活センターにご相談ください。

契約したあと、品物を渡さなくても大丈夫ですか。

特定商取引法第58条の15により、クーリング・オフができる期間内は、債務不履行の責任を問われることなく物品の引渡しを拒むことができます。事業者には、この点をあらかじめ告げる義務もあります(法第58条の9)。8日間は手元に置いておく、というのは法律上認められた対応です。

査定だけのつもりが、その場で買い取られてしまいました。

まず契約書面を受け取っているか確認してください。書面を受け取った日から8日以内であればクーリング・オフができます。すでに品物を渡してしまっている場合も、クーリング・オフ自体は可能です。事業者が第三者に引き渡している場合は、法第58条の11によりその旨を通知する義務があります。早めに消費生活センターに相談されることをおすすめします。

店舗に持ち込んだ買取もクーリング・オフできますか。

訪問購入の規制は、店舗等以外の場所で契約を締結して行う物品の購入に適用されます(法第58条の4)。消費者が自ら店舗に持ち込んで契約した場合は、この規制の対象外です。宅配買取についても、訪問購入にはあたりません。ただし、事業者が独自にキャンセル期間を設けている場合があるため、契約前に規約を確認してください。

査定額が事前に聞いていた金額と大きく違いました。

査定額そのものは、実物を見て決まるものなので、事前の目安と差が出ること自体は起こりえます。問題になるのは、事実と異なる説明で契約させられた場合です。特定商取引法第58条の10は、契約の締結について勧誘するに際し、事実と異なることを告げる行為を禁止しています。納得できないまま契約する必要はありません。その場で断って持ち帰る、という選択が常にあります。

身分証の提示を求められました。応じてよいのでしょうか。

古物営業法第15条第1項により、古物商には相手方の住所・氏名・職業及び年齢を確認する義務があります。買取の際に身分証の確認を求められるのは、法律上の手続きです。ただし、身分証をコピーさせる範囲や利用目的については、確認したうえで応じてください。

高齢の親が訪問買取に応じてしまったようです。

まず、契約書面が残っているかを確認してください。書面を受け取った日から8日以内であればクーリング・オフができます。品物がまだ手元にあれば、渡さないでください。期間を過ぎている場合でも、勧誘の経緯によっては対応できる余地があることがあります。消費者ホットライン「188」に相談してください。国民生活センターは、訪問購入について高齢者を中心にトラブルが寄せられていると注意喚起しています。

まとめ

買取をめぐる相談は、訪問購入に関するものだけで年間7,000件を超える水準が続いています。トラブルの型は、査定額の食い違い、依頼していない品目への勧誘、その場での決断の強要、品物を先に持ち帰られる、書面の不備、代金の未払い、解約の拒否といったところに集約されます。

一方で、こうしたトラブルに対しては、法律が具体的なルールを用意しています。頼んでいないのに訪ねてきて勧誘することは禁止されています(法第58条の6第1項)。契約書面を受け取った日から8日以内であれば、理由を問わず解約できます(法第58条の14)。その期間中は、品物を渡さないでいられます(法第58条の15)。書面のクーリング・オフに関する記載は、赤枠に赤字でなければなりません。

そして着物や貴金属は、規制の対象から除外される物品には含まれていません。これらを自宅で買い取る取引には、これらのルールがそのまま適用されます。

やることは、それほど多くありません。頼んでいない訪問には応じない。その場で決めない。書面を必ず受け取って赤枠を確認する。8日間は品物を渡さない。困ったら188に電話する。この5つを覚えておけば、多くのトラブルは避けられます。

売ること自体は、悪いことでも危ないことでもありません。ルールを知ったうえで、落ち着いて進めていただければと思います。