男性着物の買取はどう評価されるのか|値がつきにくい理由と見られるポイント
父や祖父の遺した男物の着物を整理していて、これは売れるものなのかと迷っている方は多いのではないでしょうか。男性の着物は、女性物と比べると買取で値がつきにくいと言われます。この記事では、なぜそうなるのかを市場の側から整理したうえで、それでも評価される条件、証紙や証明書の意味、状態とサイズの見られ方を順にまとめます。金額そのものより、何を見て判断されているのかを知っておくほうが、実際の場面では役に立ちます。
男性着物が女性物ほど値がつきにくい理由
まず前提として、着物の市場そのものが縮小してきたという事実があります。
矢野経済研究所の調査によれば、呉服小売市場規模は2018年で2,681億円(前年比98.9%)、2019年は2,664億円(前年比99.4%)と見込まれていました。同調査は、少子化の影響や婚姻組数の減少によって市場が厳しい状況にある一方、通信販売とリサイクル販売は好調に推移していると指摘しています。この調査における呉服市場には、正絹きもの、紬類、帯類、リサイクルきもの、和装小物、ゆかた、合繊素材きものなどが含まれ、きものレンタルは除外されています。
参考:「呉服市場に関する調査を実施(2019年)」|矢野経済研究所
この縮小した市場のなかで、男性の和装はさらに小さな部分を占めています。理由はいくつか重なっています。
着る機会が限られている
女性の着物は、成人式の振袖、結婚式の留袖や訪問着、卒業式の袴と、人生の節目ごとに着る場面が用意されています。男性の場合、紋付羽織袴を着るのは結婚式や成人式など限られた場面で、しかもレンタルで済ませることが一般的です。着る人の絶対数が少なければ、中古で探す人も少なくなります。
色柄の幅が狭い
男物の着物は、黒・紺・茶・グレーといった落ち着いた色が中心です。柄も無地か細かい織り柄が多く、女性物のように染めの意匠で差がつく世界ではありません。色柄で選ぶ楽しみが小さいぶん、「この一枚でなければ」という需要が生まれにくくなります。
サイズの制約が大きい
男物の着物は、対丈で着るため身丈の調整幅が女性物より小さくなります。女性物はおはしょりで長さを調整できますが、男物はそれができません。したがって、着る人の身長に合うかどうかがそのまま着られるかどうかを左右します。中古で流通させるうえで、これは大きな制約です。
リメイクや転用がしにくい
女性物の着物は、帯やバッグ、洋服にリメイクされる流れがあります。男物は生地の色柄が地味なぶん、そうした二次利用の需要も限定的です。
これらが重なるため、男性着物は「売れないわけではないが、値がつくものは限られる」という状況になっています。ただし、条件が揃えばきちんと評価されるものもあります。
買取の対象になる男性の和装品
男性の和装品は、着物本体だけではありません。何が対象になり得るのかを整理しておきます。
| 品目 | 内容 | 買取での位置づけ |
|---|---|---|
| 長着(着物本体) | 対丈で着る男物の着物 | 素材と産地で評価が分かれる |
| 羽織 | 長着の上に羽織るもの。紋付羽織は礼装用 | 長着とセットのほうが評価されやすい |
| 袴 | 馬乗袴、行灯袴など。仙台平は礼装用 | 羽織・長着と三点揃いが望ましい |
| 角帯 | 男物の帯。博多織のものが広く使われる | 産地と証紙で差が出る |
| 長襦袢 | 着物の下に着るもの | 単体では評価されにくい |
| 羽織紐・扇子・雪駄 | 小物類 | 単体では難しく、まとめて出すのが基本 |
| 反物(未仕立て) | 仕立てていない生地 | 状態がよければ評価されやすい |
このなかで、単体で評価が期待できるのは長着・羽織・袴・角帯・反物あたりです。小物類は単体では扱いにくく、着物とまとめて出すのが実務的です。
なお、家紋の入った黒紋付は、礼装として格が高い一方で、家紋が入っているために次の使い手を選びます。この点については当サイトの別記事で詳しく扱っています。
評価されやすい男性着物の条件
値がつきやすい男性着物には、いくつかの共通した条件があります。
素材が正絹であること
まず素材です。男物にはウールや化繊のものも多く流通していますが、評価の中心になるのは正絹です。素材が何かを知りたいときは、縫い付けられた品質表示のタグを確認するのが確実です。着物や羽織は家庭用品品質表示法の対象品目に含まれており、消費者庁の手引きでは、繊維の組成、家庭洗濯等取扱方法、表示者名等を表示することが定められています。
有名産地の織物であること
男物で評価されやすいのは、産地のはっきりした織物です。代表的なものを挙げます。
本場大島紬
鹿児島県の奄美大島を中心に織られる絹織物です。本場奄美大島紬協同組合は明治34年9月に創立され、現在の組合員数は83名(令和3年4月1日現在)とされています。組合の商標である「地球印」は、昭和30年1月24日付で登録第112288号として意匠登録されました。また、本場奄美大島紬の織口文字は昭和49年3月22日に連合商標として登録されています。組合設立当初から、業者の統一・進歩発展・製品検査による粗製品の防止と品質の向上を目的とした厳格な製品検査制度が実施されてきました。
大島紬には男物も織られており、渋い色調が男性の着物と相性のよい織物です。証紙が残っていれば、産地と検査を通ったことの裏づけになります。
博多織の角帯
男物の帯として広く使われているのが博多織です。博多織工業組合によれば、博多織の起源は鎌倉時代の1235年、満田彌三右衛門が宋へ渡って織物技術を習得したことにさかのぼり、15世紀後半に現在の伝統的博多織の原点が開発されました。1976年には国の伝統的工芸品に指定されています。江戸時代に黒田藩から幕府への献上品として選ばれた文様が「独鈷華皿文様」で、これ以降「献上柄」と呼ばれるようになりました。1971年に小川善三郎氏、2003年にその子である小川規三郎氏が、重要無形文化財「献上博多織」の技術保持者(人間国宝)となっています。
本場結城紬
茨城県・栃木県で織られる紬で、地機で織られたものは国の重要無形文化財に指定されており、2010年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されています。本場結城紬卸商協同組合は、産地と呉服業界、愛好家の架け橋としての役割を50年以上にわたって担ってきたとしており、「本場結城紬」は地域団体登録商標です。
仕立て上がりのサイズが大きいこと
前述のとおり、男物は身丈の調整幅が小さく、着る人の体格に合うかどうかが直接効きます。仕立て上がりのサイズが大きいものは、和裁で詰めることができるため、対応できる範囲が広くなります。逆に小さいものは、伸ばせる縫い代がなければ着られる人が限られます。
未使用・状態がよいこと
当然ですが、状態は大きく効きます。着用回数が少ない、シミや変色がない、たとう紙に包まれて保管されていたといった条件が揃うと、次の使い手にそのまま渡せるため評価が上がります。
証紙や証明書が効く理由
産地物の着物には、産地の組合が発行する証紙が付いています。この証紙は、どこで、どのような検査を経て作られたかを示すものです。
| 証紙の例 | 発行元 | 示す内容 |
|---|---|---|
| 地球印 | 本場奄美大島紬協同組合 | 奄美産の本場大島紬であること |
| 博多織の証紙(金) | 博多織工業組合 | 絹50%以上使用 |
| 博多織の証紙(青) | 博多織工業組合 | 絹50%未満使用 |
| 伝統マーク | 経済産業大臣指定にもとづく | 伝統的な技法により作られ、組合の検査に合格したこと |
博多織工業組合は、伝統的な技法によりつくられた製品で組合の厳しい検査に合格した博多織製品には、経済産業大臣の指定を受けた伝統的工芸品の証として、証紙とともに「伝統マーク」が貼付されていると説明しています。これらの証紙は、消費者に適正な情報提供を行うとともに、博多織の品質の維持および向上を図ることを目的としています。
証紙は、仕立てるときに剥がされて反物の端布と一緒に保管されていることがあります。たとう紙の中や、和箪笥の引き出しの奥に入っていることも珍しくありません。査定に出す前に、証紙や購入時の書類が残っていないかを一度探しておくと、話が進みやすくなります。
状態とサイズはどう見られるか
実際に品物を見るとき、確認されるのはおおむね次のような点です。
| 見られる点 | 具体的に確認されること |
|---|---|
| 素材 | 正絹か、ウールか、化繊か。品質表示のタグ |
| 産地・証紙 | 証紙の有無、産地名、伝統マーク |
| 寸法 | 身丈、裄丈、袖丈、前幅・後幅 |
| シミ・変色 | 衿元、袖口、裾、脇の下 |
| 虫害 | 小さな穴、食害の跡 |
| 縫製 | ほつれ、縫い代の残り具合 |
| 揃い | 長着・羽織・袴が揃っているか |
| 保管状態 | たとう紙の有無、カビ臭の有無 |
寸法は、着物を畳んだ状態でも測れます。身丈は肩から裾まで、裄丈は背中心から袖口までです。あらかじめ測っておくと、宅配で送る場合などに説明がしやすくなります。
シミや変色は、衿元と袖口に出やすいところです。長く保管されていた着物は、たたみジワの線に沿って変色が出ていることもあります。これらは自分で落とそうとせず、そのままの状態で見てもらうほうが無難です。家庭で水や洗剤を使うと、かえって輪染みが広がることがあります。
査定に出す前にしておきたいこと
準備といっても、難しいことをする必要はありません。
- たとう紙から出して、シミや虫害の有無を明るいところで確認する
- 証紙や購入時の書類、反物の端布が残っていないか探す
- 長着・羽織・袴・角帯を、揃っているものはまとめる
- 寸法を測っておく
- 湿気があるようなら、風を通してから包み直す
やらないほうがよいこともあります。シミ抜きを自分で試すこと、アイロンを直接当てること、防虫剤をたくさん入れて長期間置くことなどです。防虫剤は種類によっては生地に影響が出ることがあります。
そして、金額については期待値を調整しておくことも大切です。男性着物の買取価格は、素材・産地・証紙・状態・寸法・そのときの需要によって変わります。公的に定まった価格表があるわけではないため、目安は実際に見てもらったうえで確認するのが確実です。値がつかないものが出てくることも、あらかじめ想定しておくと落ち着いて進められます。
よくある質問
男性着物は買取してもらえますか
対象にはなりますが、女性物と比べると評価されるものが限られます。正絹で、産地がはっきりしていて、証紙が残っていて、寸法が大きく、状態がよいという条件が揃うほど評価されやすくなります。逆にウールや化繊の普段着、シミや虫害のあるものは値がつきにくい傾向があります。
羽織や袴だけでも見てもらえますか
見てもらうことはできます。ただし、長着・羽織・袴が揃っている状態のほうが、次の使い手にそのまま渡せるため評価されやすくなります。ばらばらに出すより、揃っているものはまとめて出すほうが実務的です。
証紙がなくなっていると値がつきませんか
証紙がなければ必ず値がつかないというわけではありません。織りや風合いから産地を判断できる場合もあります。ただし、証紙があれば裏づけが明確になるため、探して見つかるなら一緒に出すほうがよいでしょう。
サイズが小さい男物はどうなりますか
着られる人が限られるため、評価は下がりやすくなります。縫い代が十分に残っていれば仕立て直しで対応できることもありますが、その分の手間がかかる前提で判断されます。
家紋が入っていると売れませんか
家紋が入っていると次の使い手を選ぶため、評価は下がりやすくなります。ただし、素材や産地がよいものであれば、家紋を抜いて仕立て直す前提で扱われることもあります。詳しくは家紋入りの着物を扱った記事をご覧ください。
まとめ
男性着物が買取で値がつきにくいのは、着る機会が限られていること、色柄の幅が狭いこと、対丈で着るためサイズの制約が大きいこと、リメイクの需要が乏しいことが重なっているためです。呉服市場そのものも縮小傾向にあり、そのなかで男性向けはさらに小さな部分を占めています。
それでも評価される条件はあります。素材が正絹であること、本場大島紬や本場結城紬、博多織の角帯といった産地のはっきりした品であること、証紙が残っていること、寸法が大きいこと、状態がよいことです。産地物には組合が発行する証紙があり、博多織のように絹の含有率で証紙の色が分かれているものもあります。
査定に出す前は、シミや虫害を確認し、証紙や書類を探し、揃うものはまとめておく。この程度の準備で十分です。自分でシミ抜きをしたりアイロンを当てたりせず、そのままの状態で見てもらうのが落ち着いた進め方といえます。