クラリネットの主要メーカーと特徴|モデルの見分け方と手放すときの評価軸
クラリネットを買うとき、あるいは使わなくなった一本を手放すときに、まず気になるのがメーカーではないでしょうか。ビュッフェ・クランポン、セルマー、ヤマハといった名前は聞いたことがあっても、それぞれ何が違うのかまでは分かりにくいものです。この記事では、各社の公式サイトで確認できる範囲の情報をもとに、主要メーカーのモデル展開と管体の材料を整理します。あわせて、手放すときにどこを見られるのかもまとめます。
クラリネットのメーカーを見る前に押さえておきたいこと
メーカーごとの違いを理解するには、クラリネットという楽器そのものの成り立ちを知っておくと分かりやすくなります。
ヤマハの解説によれば、クラリネットは18世紀初頭に発明されたと言われており、ニュルンベルクの楽器製作者ヨハン・クリストフ・デンナーが発明者とされています。18世紀前半のクラリネットはキイが2つしかなく、その後テオバルト・ベームのアイデアをもとにクローゼが19世紀の半ばに現在のベーム式を完成させました。現在、日本で一般に流通しているクラリネットのほとんどはこのベーム式です。
材料についても変化がありました。古楽器は主にツゲで作られていましたが、現在の主流はグラナディラです。ヤマハは、グラナディラがツゲに比べて比重が大きく、しっかり体で支えて演奏できるため大音量で吹けると説明しています。
つまり、どのメーカーのクラリネットも、ベーム式という共通の土台の上に、各社の設計思想が乗っているという構図になります。メーカーの違いは「まったく別の楽器」という差ではなく、内径の取り方やキイの配置、仕上げの方向性の差として現れます。
主要メーカーの位置づけ
| メーカー | 本拠 | 公式サイトで確認できる主なモデル | 管体の材料展開 |
|---|---|---|---|
| ビュッフェ・クランポン | フランス | Tosca、Legend、Festival、Divine、Tradition、R13、RC、E13、Prodige、Prestige ほか | グレナディラ、モパネ、グリーンライン、ABS樹脂 |
| ヘンリー・セルマー・パリ | フランス | Muse、Prologue New Generation、Présence、Signature、Récital、Privilège ほか | 木製(グラナディラ) |
| ヤマハ | 日本 | CSシリーズ(CSGIII、YCL-CSVR ほか)、SEシリーズ、YCL-650、YCL-450、YCL-255 ほか | グラナディラ、ABS樹脂 |
以下、それぞれのメーカーについて公式サイトで確認できる内容を見ていきます。
ビュッフェ・クランポン|クラリネットの世界的な基準とされるR13
ビュッフェ・クランポンは、フランスの管楽器メーカーです。公式サイトでは、200年を超える伝統が確かな技術と芸術性への追求によって培われてきたと説明されています。
同社のクラリネットで最もよく知られているのがR13です。公式サイトによれば、R13は1955年にロベール・カレによって生み出されたモデルで、アメリカで急速に地位を確立しました。倍音豊かな芯のある音と、全音域にわたる力強い音の通りを特長とし、交響曲から室内楽、ソリスト、指導者、軍楽隊まで幅広い場面に対応するとされています。同社はR13を「カタログで最も歴史あるモデルでありながら、今なお最も売れている」製品であり、クラリネットの世界的な基準と位置づけています。
参考:「R13 クラリネット」|Buffet Crampon
R13はB♭管・A管・E♭管が展開されており、素材もグレナディラ材のほか、グリーンライン®複合材、モパネ材の限定モデルが用意されています。同じR13という名前でも素材違いが存在する点は、型番を確認するときに覚えておきたいところです。
上位機種としてはTosca、Legend、Festival、Divine、Traditionなどが並び、学習者向けにはE13やProdigeといったモデルがあります。またアルトクラリネット、バスクラリネット、バセットホルン、バセットクラリネット、コントラアルトクラリネットといった同族楽器も展開されています。
グリーンラインとは何か
ビュッフェ・クランポンの製品には、グレナディラやモパネといった木材のほかに「グリーンライン」という素材があります。これは複合材で、公式サイトでは木製モデルと並ぶ素材のひとつとして掲載されています。木製の管体は温度や湿度の変化に敏感ですが、複合材はその影響を受けにくいという性格があります。中古の個体を見るときは、外見が黒くても木製とは限らないため、型番の確認が必要になります。
ヘンリー・セルマー・パリ|1885年創業のフランスの老舗
セルマー・パリは、サクソフォンの印象が強いメーカーですが、出発点はクラリネットに近いところにありました。
公式サイトの沿革によれば、1885年にアンリ・セルマーがリードとマウスピースの製造から事業を始めています。クラリネットそのものの製造は1898年から職人の協力を得て開始され、1904年のセントルイス万国博覧会で金メダルを獲得しました。1919年にマント・ラ・ヴィルに工場を開設し、1929年にはアドルフ・サックス社を買収しています。
参考:「Notre histoire」|Henri SELMER Paris
現行のクラリネットとしては、Muse(B♭、A、E♭)、Prologue New Generation、Présence、Signatureといったモデルが公式に案内されており、Récital、Privilège、Serie 10といった従来からのモデルも位置づけられています。日本ではノナカが取り扱いブランドとして案内しており、SA80 SERIE IIやSERIE IIIなどの表記も見られます。
セルマーのクラリネットは、ビュッフェ・クランポンほど流通量が多くありません。そのぶん、モデル名を正確に把握しておくことが、状態を人に伝えるうえで重要になります。
ヤマハ|シリーズで性格を分けている国産メーカー
ヤマハのクラリネットは、大きく2つのシリーズに分かれています。公式サイトの説明では、CSシリーズは力強くクリアで芯があり、ソリスティックな音が特長で、内径がストレートに近いため音が遠くまで飛ぶとされています。一方のSEシリーズは、包み込むような豊かな響きが特長で、内径がなだらかに広がることで音色が柔らかく広がると説明されています。
上位機種としてはSE Artist Model、CSGIII、YCL-CSVR、YCL-CSVmaster、YCL-SEVmasterなどが並びます。中級機にはYCL-650、YCL-450があり、YCL-450はグラナディラ製でカスタムCSと同様の内径を採用しているとされています。初心者向けのYCL-255はABS樹脂製で、熱や湿気に強いことが特長として挙げられています。このほか、バスクラリネット、アルトクラリネット、E♭クラリネット、ドイツ式クラリネットも展開されています。
型番の数字がそのまま価格帯や仕様の目安になっているため、手元の楽器がどのクラスなのかを把握しやすいのがヤマハの特徴です。ケースの中や管体の刻印を見て、YCL-から始まる型番を確認しておくとよいでしょう。
管体の材料で何が変わるのか
メーカー選び以上に、実は素材の違いのほうが個体の性格を左右する場面があります。
| 材料 | 主な性格 | 備考 |
|---|---|---|
| グラナディラ(アフリカン・ブラックウッド) | 比重が大きく、しっかり支えて大音量を出せる | 学名 Dalbergia melanoxylon。木管楽器の管体に広く使われる |
| 複合材(グリーンライン等) | 温度・湿度の変化を受けにくい | ビュッフェ・クランポンが展開 |
| ABS樹脂 | 熱や湿気に強い | ヤマハYCL-255など入門機に採用 |
グラナディラについては、ヤマハが環境の取り組みのなかで詳しく紹介しています。学名はDalbergia melanoxylonで、ローズウッドの一種にあたります。主な産地はタンザニア南部とモザンビーク北部で、セネガル、ナイジェリア、ケニアなどアフリカ南部に広く分布しています。気乾密度は1.1〜1.3g/立方センチメートルで、楽器用木材の中で最も重い部類に入るとされています。また、IUCNレッドリストではNear Threatened(準絶滅危惧種)に分類され、ワシントン条約(CITES)附属書IIの掲載種です。成長には100年以上の期間を要し、天然更新が進みにくい傾向があると説明されています。
参考:「アフリカン・ブラックウッド」|ヤマハ株式会社 おとの森
木製の管体は、割れを避けるための扱いが必要になります。長く吹いていなかった楽器をいきなり長時間吹くと負担がかかるため、しばらく使っていなかった個体は、まず状態を見てもらうのが無難です。
クラリネットの種類とメーカーの関係
クラリネットには複数の調子と大きさがあります。吹奏楽やオーケストラで中心になるのはB♭管ですが、オーケストラではA管も使われ、より高い音域を担うE♭管、低音域のバスクラリネットもあります。
ヤマハの解説では、バスクラリネットは18世紀末のフランスで初めて記録され、1838年にアドルフ・サックスが現代型を製作したとされています。最初の使用例としてマイアベーアの歌劇『ユグノー教徒』が挙げられています。
主要3社はいずれもB♭管以外の同族楽器も展開しています。手元の楽器がどの調子のものか分からない場合は、管体の刻印や、ケースに残っている書類を確認するのが確実です。
使わなくなったクラリネットを手放すときに見られるところ
ここからは、楽器を手放す側の視点で整理します。クラリネットの評価は、メーカー名だけで決まるわけではありません。実際には次のような点が組み合わさって判断されます。
| 見られる点 | 具体的に確認されること |
|---|---|
| メーカーと型番 | 管体の刻印。ビュッフェ・クランポンならR13やE13、ヤマハならYCL-から始まる番号 |
| 管体の材料 | 木製か、複合材か、樹脂か。同じモデル名でも素材違いがある |
| 管体の状態 | 割れ、欠け、修理跡の有無 |
| キイの状態 | 曲がり、メッキの剥がれ、動きの渋さ |
| タンポ・コルク | 劣化、剥がれ、密閉できているか |
| 付属品 | 純正ケース、バレル(樽)、ベル、マウスピース、リガチャー、キャップ、保証書・取扱説明書 |
| 調整歴 | 直近でリペアに出しているか |
型番は、上管や下管に刻印されていることが多く、シリアルナンバーとあわせて確認できます。この情報がはっきりしているかどうかで、話の進み方が変わります。
付属品も見落とされがちです。バレルは音程に関わる部品で、同じモデルでも長さ違いが存在します。純正ケースやマウスピースが揃っているほうが、次の使い手にとって使い始めやすい状態になります。
なお、状態が悪いものを無理に自分で分解したり、クリーナーで磨いたりするのは避けたほうが無難です。キイの調整は精度が求められる作業で、素人が触ると余計に手がかかることがあります。そのままの状態で見てもらい、必要な整備は専門家に任せるほうが結果的に穏当です。
買取価格については、メーカー・型番・状態・付属品・そのときの需要によって変わります。相場を示している情報は業者ごとの実績にもとづくものが多く、公的に定まった価格表があるわけではありません。金額の目安は、実際に見てもらったうえで確認するのが確実といえます。
よくある質問
クラリネットのメーカーはどこが一番良いのですか
一概には言えません。ビュッフェ・クランポン、セルマー・パリ、ヤマハはいずれも各社の公式サイトで幅広いモデルを展開しており、価格帯も入門機から最上位機まで用意されています。吹奏楽の現場ではビュッフェ・クランポンとヤマハの流通量が多い傾向がありますが、どれが合うかは奏者や用途によって変わります。
手元のクラリネットのメーカーや型番はどこで分かりますか
管体の上管・下管に刻印されていることが一般的です。ブランドのロゴとあわせて、型番やシリアルナンバーが打たれています。ケースの中に保証書や取扱説明書が残っていれば、そちらでも確認できます。
木製と樹脂製ではどちらが評価されますか
一般に、上位機種は木製で作られています。ただし樹脂製が劣るという意味ではなく、ヤマハはYCL-255について熱や湿気に強い点を特長として挙げています。中古の評価という観点では、上位機種のほうが元の価格帯が高いため、結果として差が出やすいという構図です。
長年吹いていない楽器でも見てもらえますか
多くの場合、状態を確認したうえで判断されます。タンポの劣化やキイの動きの渋さは、使っていない期間が長いほど出やすくなります。分解せず、そのままの状態で相談するのが基本です。
付属品が揃っていないと評価されませんか
揃っていないから対象外になるとは限りませんが、純正ケースやマウスピース、バレルなどが揃っているほうが、次の使い手が使い始めやすい状態になります。手元にある付属品はまとめて一緒に見てもらうのがよいでしょう。
まとめ
クラリネットの主要メーカーは、ビュッフェ・クランポン、セルマー・パリ、ヤマハの3社が中心です。ビュッフェ・クランポンは1955年にロベール・カレが生み出したR13を軸に幅広いモデルを展開し、素材もグレナディラ・モパネ・グリーンラインなど複数を用意しています。セルマー・パリは1885年創業で、1898年からクラリネットを製造してきた老舗です。ヤマハはCS・SEという2つのシリーズで性格を分け、入門機から最上位機まで型番で整理しています。
管体の材料は、グラナディラ、複合材、ABS樹脂に大別されます。グラナディラはワシントン条約附属書IIの掲載種で、成長に100年以上を要する木材でもあります。
手放すときに見られるのは、メーカー名だけではありません。型番、材料、管体とキイの状態、タンポやコルクの劣化、そして付属品の有無が組み合わさって判断されます。まずは刻印を確認し、付属品をまとめたうえで、状態をそのままにして相談するのが落ち着いた進め方といえます。