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着物が高いのはなぜか|買取で評価が変わる理由

呉服店で買ったときの値段を思い出して、これはいくらで売れるのだろうと考える方もいるのではないでしょうか。着物が高いのには理由がありますが、その理由がそのまま買取の評価につながるとは限りません。そこでこの記事では、着物が高い理由を工程・素材・産地から整理したうえで、購入価格と買取での評価がなぜ別のものになるのかを説明します。

着物が高い理由は、工程の数と時間にある

着物の生地は、染めるにしても織るにしても、一人の職人が最初から最後まで担当するわけではありません。工程ごとに専門の職人が分業する形が一般的です。

加賀友禅の場合

協同組合加賀染振興協会は、加賀友禅の制作工程について、主な工程だけで9つあり、そのすべての過程で熟練の技術が求められると説明しています。一点一点、根気と時間をかけて仕上げられる手描き友禅は、それゆえに高い価値を誇るとも記されています。

同協会が挙げている手描き友禅の工程は、図案作成、仮仕立て、下絵、糊置き、彩色、下蒸し、中埋め、地染め、本蒸し、水洗、脱水・乾燥、仕上げという流れです。糊置きでは、もち米の粉を蒸して作った糊を紙の筒に入れて絞り出し、下絵の線に沿って細く糊を引きます。これは「糸目糊」と呼ばれ、次工程でさす染料がにじみ出さないよう防波堤の役割を果たすとされています。

参考:「加賀友禅とは」|協同組合加賀染振興協会

京友禅の場合

京都手描友禅協同組合は、手描友禅の工程として、企画考案、ゆのし、検尺・墨打ち、下絵羽、下絵、糊置(ゴム糸目)、伏糊、引染、蒸し、水元、挿友禅、金彩、刺繍、補正、上絵羽を紹介しています。

このうち補正(地直し)については、散り糊、染めむら、伸子汚れ、糊破、合い口のずれ、模様泣きなどに対して様々な薬品を使用し、習熟した専門業者が行うと説明されています。仕上げの段階にも専門の担い手がいることが分かります。

参考:「手描友禅ができるまで」|京都手描友禅協同組合

京都市は京友禅について、江戸の元禄年間に扇絵師の宮崎友禅斎が創案したと伝えられると説明しています。現在は刷毛や筆を使って模様を描き染めていく「手描友禅」と、型紙を使って染めていく「型友禅」があるとされています。

参考:「国指定伝統的工芸品(染織)」|京都市

織物は糸づくりから始まる

結城市は結城紬について、世界でも類を見ない、手で紡いだ無撚糸(むねんし)の糸を使用し、織り手が腰の力で加減を調整しながら織りあげることで、軽くて暖かい結城紬独特の風合いが生み出されると説明しています。糸つむぎ、絣くくり、地機織りの技術をはじめ、その工程のほとんどが手作業であるとされています。

同市によれば、この3工程は昭和31年に国の重要無形文化財に、昭和52年に伝統的工芸品に、平成22年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。文化庁の国指定文化財等データベースでも、結城紬の指定年月日は1956年(昭和31年)4月24日、認定区分は保持団体認定と記載されています。

参考:「結城紬の紹介・製作工程」|結城市「結城紬」|国指定文化財等データベース(文化庁)

本場大島紬織物協同組合は、大島紬の工程について、大きく分けると30以上の工程があり、半年から一年という長い時間をかけて一反の織物が完成すると説明しています。それぞれの工程には、その分野に精通した専門の職人がいて、自分の担当する工程を仕上げ、次の工程へと渡していくとも記されています。

参考:「大島紬の製作工程」|本場大島紬織物協同組合

工程の数だけ人の手が入るということは、それだけの時間と技能が価格に乗るということでもあります。着物が高い理由として「手間がかかるから」と言われるのは、こうした具体的な時間を指しています。

品目 主な産地 公式資料に示された工程・期間
加賀友禅 石川県 主な工程だけで9つ
京友禅(手描友禅) 京都府 企画考案から上絵羽まで15段階の工程を紹介
結城紬 茨城県結城市ほか、栃木県 工程のほとんどが手作業。糸つむぎ・絣くくり・地機織りが重要無形文化財の指定要件
本場大島紬 鹿児島県、宮崎県 大きく分けて30以上の工程。半年から一年

素材と産地の制度が価格を支えている

着物の主な素材は、絹、木綿、麻、ウール、ポリエステルなどの化学繊維です。このうち、礼装や高級品として扱われるものの中心は絹(正絹)です。

絹は蚕の繭から取れる天然繊維で、繭の生産、製糸、精練という段階を踏んで初めて糸になります。工業製品のように生産量を一気に増やすことができず、原価を大きく下げにくい素材です。

さらに、染織品の場合は「その産地の技法で作られていること」自体が制度上の条件になっているものがあります。伝統的工芸品は、伝統的工芸品産業の振興に関する法律にもとづく制度です。沖縄県の資料によると、特定製造協同組合等は「伝統証紙表示実施規程」に従って対象となる伝統的工芸品の検査を行い、検査基準に合格したものに伝統証紙を貼付するとされています。伝統証紙を使うには、伝統的工芸品産業振興協会と伝統証紙使用許諾契約を交わす必要があるともされています。

参考:「令和6年度 工芸産業振興施策の概要」(PDF)|沖縄県

名乗れる範囲が制度上限られており、その中で作れる量も限られる。この構造が、価格を下げにくくしています。

作り手の肩書きも価格に影響します。作家もの、伝統工芸士、重要無形文化財の保持者。結城紬のように、品目としての伝統的工芸品指定と、技術としての重要無形文化財指定の両方がある例もあります。

ただし、肩書きの有無だけで着物の良し悪しが決まるわけではありません。無名の職人が丁寧に織った紬が、日常的に着るうえで扱いやすいということも十分にあります。

洋服の価格は下がり、着物の作り方は変わらなかった

着物を高いと感じる理由には、比較対象である洋服の価格が下がってきたことも関係しています。

環境省は、国内アパレル供給量・市場規模・衣類の購入単価の推移について、国内における供給数は増加する一方で、衣服一枚あたりの価格は年々安くなり、市場規模は下がっていると説明しています。傾向として大量生産・大量消費が拡大しているとも言え、衣服のライフサイクルの短期化による大量廃棄への流れが懸念されるとしています。

参考:「サステナブルファッションとは」|環境省

一方で、伝統的な技法による着物は、工程を機械に置き換えることが難しく、同じ構造のまま今日に至っています。両者の差が開いたことで、着物の値段が以前より高く見えるようになった面はあると考えられます。

ここまでが「着物が高い理由」です。ここから先が、買取の話になります。

高く買った着物が、そのまま高く評価されるとは限らない

購入時の価格と買取での評価は、決まり方が違います。同じ着物について語っていても、見ているものが別だからです。

購入時の価格には、生地の製造原価に加えて、仕立て代、流通の各段階の費用、販売の費用が含まれます。反物として作られた時点の価値だけで値札が決まっているわけではありません。

買取での評価は、これから次に使う方の手に渡ることを前提に組み立てられます。そのため、確認されるのは次のような点になります。

購入時に価格を構成していたもの 買取時に評価を構成するもの
生地の製造原価(工程・素材・産地) 産地と技法を示せる証拠(証紙・落款)
仕立て代 仕立て上がりの寸法と、仕立ての質
流通と販売にかかる費用 現在の需要と、状態
購入時の付加サービス 付属品(たとう紙、共箱、購入時の書類)

左の列と右の列は、重なる部分もあれば重ならない部分もあります。仕立て代や販売にかかった費用は、次に使う方にとっての価値には直接つながりません。

さらに、時間の経過が加わります。絹は保管の条件によって変色し、シミが出ます。寸法は着る方の体格に合うかどうかで評価が変わります。柄や色は、現在の好みとの距離が出ます。

つまり「高く買ったのだから高く売れるはず」という前提は、買取の場では成り立ちにくいのが実情です。これは着物に限った話ではありませんが、着物は購入価格の記憶が強く残りやすいぶん、差を感じやすい品でもあります。

なお、高い着物と安い着物をどう見分けるかについては別記事で整理しています。あわせて確認いただけます。

買取で評価が組み立てられる順序

査定では、次の順で情報が確認されていきます。手元で先に確認しておくと、話が具体的になります。

1つ目は素材です。正絹か、ウールか、化学繊維か。手に持ったときの重みや、光の当たり方で見える艶が判断材料になります。

2つ目は産地と技法を示す証拠です。証紙は、産地の織物組合などが発行する、産地や品質を証明するものです。反物に貼られていたり、仕立て時に切り取って保管されていたりします。伝統的工芸品の場合、指定された技法・原材料で作られたことを示す伝統証紙が付きます。

作家ものであれば、生地の端や裾のあたりに落款が入っていることがあります。証紙も落款も、産地や作り手を第三者の記録として示すためのものです。

3つ目は寸法です。仕立て上がりの着物であれば、身丈、裄、袖丈を測ります。寸法が小さいと、着られる方が限られます。

4つ目は状態です。シミ、変色、カビ臭、虫食い、擦れ、八掛や胴裏の傷み。中古の衣類である以上、状態は評価の起点になります。

5つ目は付属品です。たとう紙、共箱、購入時の明細、仕立て時の寸法書き。これらが残っていれば、由来をたどる材料になります。

環境省は、持っている服の45%が使われずにしまい込まれていると説明しています。あわせて、もう着ないと思ったらリユースショップを活用するなど、適切に手放すことを検討するよう案内しています。手放した服がリユース・リサイクルを通じて再活用される割合の合計は約42%で、年々その割合は高まってきているとも記されています。

参考:「サステナブルファッションとは」|環境省

しまい込んだままでは状態は良くなりません。手放すかどうかを決めていない段階でも、一度広げて状態を確認しておくと、判断の材料が増えます。

購入時の記憶と査定の話をどう擦り合わせるか

購入時の価格が分かっている場合、その情報は伝えて構いません。ただし、金額を基準に交渉するより、購入時に受けた説明の中身を伝えるほうが役に立ちます。

たとえば次のような情報です。

  • どこで購入したか(産地の店か、百貨店か、展示会か)
  • 何と説明されたか(産地名、技法名、作家名)
  • 反物から仕立てたか、仕立て上がりを買ったか
  • 仕立ての際に寸法をどう指定したか
  • 着用の回数と、その後の保管方法

これらは、証紙が見つからない場合に手がかりになります。産地名や作家名の記憶があれば、そこから確認を進められます。

逆に、金額だけを伝えても、査定に使える情報にはなりません。購入価格と買取価格は別の構造で決まるためです。

査定を受けたあとは、何を根拠にその評価になったのかを聞いておくとよいでしょう。素材、証紙、寸法、状態のどこが判断を分けたのかが分かれば、他の着物を出すときの見通しも立ちます。

手放す前に確認しておきたいこと

自分で手入れをしない

シミや汚れを自分で落とそうとする作業は避けたほうが安全です。絹は水や摩擦に弱く、部分的に触れば輪ジミが残る場合があります。

手放すことが決まっているのであれば、現状のまま見てもらうほうが二度手間になりにくいでしょう。

証紙とたとう紙を探す

証紙は、たとう紙の中や、仕立て時の残布と一緒に残っていることがあります。着物本体だけを取り出して持ち込む前に、しまってあった場所ごと確認しておくとよいでしょう。

訪問購入という取引形態のルール

自宅に来てもらって買い取ってもらう形は、特定商取引法上の「訪問購入」にあたる場合があります。消費者庁の特定商取引法ガイドによれば、事業者は勧誘に先立って、事業者の氏名、勧誘の目的、購入しようとする物品の種類を告げなければならないとされています。

また、事業者は訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘の要請をしていない者に対し、相手方の自宅等で売買契約の締結について勧誘をし、または勧誘を受ける意思の有無を確認してはいけないとされています。単に相手方から査定の依頼があった場合に、査定を超えて勧誘を行うことは法に抵触するとも説明されています。

契約の申込みを受けたときや契約を締結したときには、物品の種類や購入価格などを記載した書面を渡すことも定められています。法律で決められた書面を受け取った日から数えて8日以内であれば、書面または電磁的記録により申込みの撤回や契約の解除(クーリング・オフ)ができるとされています。クーリング・オフ期間内は、事業者に対して物品の引渡しを拒むこともできると説明されています。

参考:訪問購入|特定商取引法ガイド(消費者庁)

金額の考え方

着物の買取価格について、公的な価格基準は存在しません。素材、証紙、寸法、状態、付属品の組み合わせで判断されるため、一律の目安を示すことはできません。現物を見てもらったうえで、根拠を聞くのが確実です。

よくある質問

Q1. 着物はどうして洋服より高いのですか

工程が分業で多く、その大半が手作業だからです。協同組合加賀染振興協会は加賀友禅の主な工程を9つとし、本場大島紬織物協同組合は大島紬の工程を30以上、期間を半年から一年としています。素材が絹で大量生産による原価低減が効きにくいことも理由のひとつです。

Q2. 高く買った着物は高く売れますか

購入価格と買取価格は、決まり方が違います。購入時の価格には仕立て代や流通・販売の費用が含まれますが、買取ではこれから次に使う方に渡ることを前提に、素材・証紙・寸法・状態が確認されます。購入価格をそのまま基準にすると、差を感じやすくなります。

Q3. 証紙がない着物は評価されないのですか

そうとは限りません。証紙は産地や技法を裏づける材料のひとつであり、仕立ての際に切り取られてそのまま紛失していることもあります。生地の質感や織り・染めの特徴からも判断されます。証紙があるほうが根拠を示しやすいのは確かです。

Q4. 寸法が小さい着物はどう扱われますか

着られる方が限られるため、需要の面では条件が狭くなります。ただし、寸法だけで評価が決まるわけではありません。素材や産地、状態とあわせて判断されますので、まず現物を見てもらうのがよいでしょう。

Q5. しまい込んだままの着物はどうすればよいですか

一度広げて状態を確認するところから始めるとよいでしょう。環境省は、持っている服の45%が使われずにしまい込まれているとしたうえで、もう着ないと思ったらリユースショップを活用するなど、適切に手放すことを検討するよう案内しています。しまい込んだままでは状態は良くなりません。

まとめ

着物が高いのは、分業された多数の工程と、絹という素材、そして産地の技法を定めた制度に支えられているためです。ただし、その理由がそのまま買取の評価につながるわけではありません。購入価格には仕立て代や流通の費用が含まれる一方、買取では素材・証紙・寸法・状態・付属品が確認されます。証紙とたとう紙を探し、状態を確認したうえで当社までご相談ください。

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