スターテル金貨とは|古代の金貨の基礎と確認の手順
古代のコインを譲り受けたものの、調べようとして手が止まった方は少なくありません。スターテルという言葉は特定の国の貨幣名ではなく、日本の公的機関にまとまった資料もほとんどないためです。そこでこの記事では、スターテル金貨について大英博物館の公開資料で確認できる範囲を整理し、手元の1枚を自分で記録する手順までを説明します。
スターテル金貨とは|古代地中海世界で使われた貨幣の呼び名
スターテル(stater)は、古代の地中海世界で使われた貨幣の呼び名です。特定の国が発行した一種類の貨幣を指す固有名詞ではありません。
同じスターテルという呼び名でも、素材は金・銀・エレクトロンとさまざまでした。エレクトロンは、金と銀が自然に混ざった状態の金属を指します。発行した都市や王も、時代の幅も広く分かれています。
大英博物館が公開している常設展示「Money Gallery」の解説冊子には、スターテルという語がいくつもの文脈で登場しました。リディアの金貨と銀貨、アイギナやコリントスの銀貨、そしてマケドニアやガリアの金貨です。
参考:Money Gallery large print guide(Room 68)|The British Museum
つまり「スターテル金貨」という一語だけでは、どこの何を指しているかが定まりません。手元の1枚を調べるときは、まず地域と時代を絞り込む作業から始めることになります。
古代コインの評価は、発行地と時代の特定、真贋の確認、状態のグレード、来歴の記録という4つで決まります。同じスターテル金貨でも、この4点がどこまで確かめられているかによって扱いが大きく変わります。
金貨の価値を純度と量目から一覧で見る考え方は近代の金貨には有効ですが、古代のコインは含まれる金の重さだけで決まりません。まずは何であるかを確かめる段階から進めましょう。
コインの始まりとスターテル|リディアのエレクトロン貨
コインの起源については、大英博物館の解説がひとつの手がかりになります。最初のコインは現在のトルコ中部にあたるリディアで作られ、使われた可能性が高いとされました。時期はおよそ紀元前650年から紀元前450年です。
素材はエレクトロンでした。そしてこれらのコインは、特定の重量に合わせて作られています。
参考:Money Gallery large print guide(Room 68)|The British Museum
同じ解説には、紀元前650年ごろに打たれた最初期のエレクトロン貨についての記述もありました。価値つまり額面が金属の重量で計算されたため、厳格な重量基準に従って作られたという説明です。当初は片面にのみ単純な意匠があり、ハンマーの打撃で刻まれました。
ここに「エレクトロンのスターテル貨2枚、イオニア、紀元前650年ごろ」という展示品が挙げられています。スターテルという単位が、コインの歴史のかなり早い段階から使われていたと分かるでしょう。
金と銀のスターテル貨については、リディアで紀元前600年から550年ごろのものが挙げられました。伝説的な富で知られるリディア王クロイソス(紀元前560年から547年ごろ)に帰される例が多いものの、実際にはより早い時期にも遅い時期にも作られた可能性があるという説明です。
意匠はライオンの前半身と雄牛の前半身が向かい合う形でした。金貨と銀貨は、額面ごとに複数の重量で発行されたと記されています。
銀のスターテル貨は、ギリシャの都市国家にも広がりました。アイギナ、コリントス、アテネといった都市が挙げられており、シルバーコインの種類と価値を考えるうえでも古い層にあたります。紀元前500年代の終わりまでには、ほとんどの造幣地が両面に意匠を持つコインを作り始めたという説明です。
金のスターテルと地域の広がり|マケドニアからガリアまで
大英博物館の解説から、スターテルに関する記載を時代と地域で整理すると次のようになります。
| 記載されている品目 | 地域 | 時代 |
|---|---|---|
| エレクトロンのスターテル貨 | イオニア(現トルコ) | 紀元前650年ごろ |
| 金と銀のスターテル貨 | リディア(現トルコ) | 紀元前600〜550年ごろ |
| 銀のスターテル貨 | アイギナ(ギリシャ) | 紀元前570〜550年ごろ |
| 銀のスターテル貨 | コリントス(ギリシャ) | 紀元前560〜540年ごろ |
| 銀のスターテル貨(王ゲタス) | トラキアのエドネス人 | 紀元前400年代 |
| 金のスターテル貨(王フィリッポス2世) | マケドニア(ギリシャ) | 紀元前323〜315年 |
| 金のスターテル貨(鉄器時代) | ガリア(現フランス・ベルギー) | 紀元前60〜50年 |
参考:Money Gallery large print guide(Room 68)|The British Museum
マケドニア王フィリッポス2世の金のスターテル貨と、ガリアの鉄器時代の金のスターテル貨は、どちらも馬と戦車の意匠だと説明されています。ギリシャの意匠が西へ伝わり、模倣された結果でした。
トラキアについても記載があります。ただし大英博物館の解説でトラキアと結びつけられているスターテルは銀貨でした。エドネス人の王ゲタスの銀のスターテル貨が、紀元前400年代のものとして挙げられています。
トラキア産の金のスターテル貨については、この資料では確認できませんでした。トラキアという地名でスターテル金貨を紹介している情報を見かけた場合は、その発信元をたどってみてください。
なおトラキアの位置は、同じ解説のなかで「Thrace(modern Bulgaria)」と示されました。現在のブルガリアあたりを指す古代の地域名です。
地域と時代が特定できないうちは、価値の話に進まないほうがよいでしょう。何であるかを絞り込む作業が先です。
打刻でつくられた貨幣の見え方|1枚ごとに違う理由
古代のコインは、現代の硬貨とは作り方が根本的に異なります。大英博物館は打刻の仕組みを次のように説明しました。
コインを打つには2つの道具が必要でした。ひとつは金床側の型で、固い台に固定されます。もうひとつは打棒側の型です。これを未加工のコイン素材の上に置き、ハンマーで叩いて意匠を転写しました。
参考:Money Gallery large print guide(Room 68)|The British Museum
手作業ですから、1枚ごとに仕上がりが違います。輪郭が円から外れていたり、意匠が中心からずれていたりするのは、この作り方であれば起こりうることです。
厚みも均一ではありません。現代のコインのような正確な真円と一定の厚みを期待すると、判断を誤ることになるでしょう。
もうひとつ知っておきたいのは、古代から模倣品が存在したという事実です。大英博物館は、ソグディアナ(現在のウズベキスタン・タジキスタン)でアレクサンドロス大王の帝国のコインが模倣された例を挙げました。
鉄器時代のケルト人がギリシャのコインを模倣した例もあります。判読できたギリシャ文字が、次第に抽象的な模様や点に置き換わっていったという説明です。
さらに古代のめっき偽造にも触れられていました。ローマ後期には、税として納められた貴金属を再鋳造の前に地金へ溶かし直すことで、めっき偽造を排除しようとしたと記されています。地金には、金の純度を調べに来た担当者の名が打刻されました。
参考:Money Gallery large print guide(Room 68)|The British Museum
つまり「古そうに見える」ことは、真正性の根拠になりません。時代を経た模倣品そのものが研究の対象になっている世界です。
手元の1枚を記録する手順|実測と写真
調べる前に、まず記録を作ってください。数値と画像がそろっていれば、相談するときに話が早く進みます。
用意するのはデジタルノギス、0.01g単位まで表示できる精密はかり、そしてカメラです。
| 記録する項目 | 使う道具 | 書き留める内容 |
|---|---|---|
| 重量 | 精密はかり | 0.01g単位の数値 |
| 直径 | デジタルノギス | 向きを変えて3か所の最大値と最小値 |
| 厚み | デジタルノギス | 最も厚い箇所と最も薄い箇所 |
| 意匠 | カメラ | 表と裏の全体、判読できる文字 |
| 打刻の向き | 目視 | 表と裏で意匠の上下がどうずれているか |
| 加工の跡 | 目視・カメラ | 穴、吊り金具の跡、縁の削り |
打刻の向きは、見落とされやすい項目です。表を上にしたまま裏返したとき、裏面の意匠がどの角度を向いているか。この関係は個体ごとに違い、記録として意味を持ちます。
加工の跡も丁寧に見てください。古代の金貨は装身具に仕立てられた例が知られています。大英博物館の展示にも、キュレネ(現在のリビア)で打たれた金のスターテル貨をペンダントにしたものが含まれました。
参考:Money Gallery large print guide(Room 68)|The British Museum
縁に金具を外した跡があったり、片側だけ摩耗が強かったりする場合は、そうした来歴を示している可能性があります。気づいた点はすべて書き留めましょう。
なお、古銭の洗浄は避けたほうがよいので、洗ったり磨いたりしないでください。表面の状態そのものが判断材料になります。汚れを落とすかどうかは、専門家に見てもらったあとで決めるほうが安全です。
保管は1枚ずつ分けます。硬貨用のホルダーに入れ、湿気の少ない場所に置いてください。素手で長く触るのも避けたいところです。
金の品位をどう確かめるか|非破壊でできること
金かどうかを確かめたいという相談はよくあります。ただし古代コインの場合、選択肢はかなり限られました。
造幣局の品位証明は、貴金属製品の製造または販売をしている事業者からの依頼に応じて品位試験を行い、合格したものに証明記号を打刻する仕組みです。この記号が通称ホールマークです。
対象は事業者からの依頼による貴金属製品でした。個人が持ち込む古代コインを想定した制度ではありません。
造幣局は地金と鉱物の分析も受け付けています。ただしこちらは破壊分析であり、貨幣そのものを対象とする記載もありませんでした。
参考:地金・鉱物の分析|造幣局
古代コインを削って調べるという選択肢は、現実には取れないと考えてください。非破壊で成分を調べられる設備を持つ事業者に相談するのが、実際的な進め方になります。買取業者の選び方として、古物商許可とあわせて設備の有無も確かめておくとよいでしょう。
自分でできることは、重量と寸法の記録までです。比重を計算する方法もありますが、表面に凹凸のある古代コインでは誤差が大きくなります。参考値以上のものにはなりません。
磁石を近づける方法を紹介する情報もあります。ただし金でも銀でも銅でも磁石には付きませんから、これだけで素材を特定することはできないでしょう。
実際に付いている価格の水準
金額の見当をつけたい場合は、古代コインを扱う専門店が公開している販売価格が手がかりになります。次は、ある専門店の在庫として示されていた価格です。2026年9月時点の調査で、いずれも販売価格であり買取価格ではありません。
| 品目 | グレード | 販売価格 |
|---|---|---|
| マケドニア ステーター金貨 フィリップ2世 紀元前359〜336年 | AU/極美品 | 1,100,000円 |
| マケドニア王国 ステーター金貨 アテナとニケ神 紀元前336〜323年 | ChVF/美品 | 750,000円 |
| マケドニア王国 ステーター金貨 アテナとニケ神 紀元前336〜323年 | ChAU/極美品+ | 2,200,000円 |
表の2行目と3行目は、同じ発行地・同じ時代・同じ意匠のコインです。それでもグレードの違いで3倍近い開きが出ています。前述の4つの要素のうち、状態がどれだけ効くかが読み取れる例だといえます。
なお、これらは店頭に並んでいる販売価格です。買取の場面では、真贋の確認、来歴の書類、市場での売れ行きが加わって金額が決まります。上の数字はあくまで水準を知るための目安として見てください。
来歴が重要な理由|文化財の不法輸出入の規制
古代のコインには、来歴(プロヴナンス)という論点がついて回ります。いつ、どこで、誰の手を経て日本に入ったのかという記録です。
文化庁は、文化財の不法な輸入・輸出および所有権移転を禁止し防止する手段に関する条約と、その国内実施法について説明を公開しています。国内実施法である「文化財の不法な輸出入等の規制等に関する法律」は、平成14年(2002年)12月9日に施行されました。
この法律では、外国の博物館等から盗取された文化財が「特定外国文化財」として指定されます。指定されたものの輸入は、外国為替及び外国貿易法による輸入承認事項とされました。国内への流入を防ぐ仕組みです。
盗難被害者の側にも特例が置かれています。善意取得者に対する回復請求の期間が、2年間から10年間に延長されました。ただし代価の弁償を必要とすると説明されています。
手元のコインがこの制度に直接かかわるとは限りません。それでも、購入時の書類や譲り受けた経緯のメモは捨てずに残しておいてください。
来歴の記録があると、取引の場面で説明がしやすくなります。逆に何も残っていない場合、扱いに慎重な事業者もあるでしょう。
海外で購入したものについては、当時のレシートや輸入の記録が手元にあるかを確認します。故人から受け継いだものであれば、いつごろ入手したと聞いていたかをメモに残しておくだけでも役に立ちます。
よくある質問
スターテルはどこの国の通貨ですか
特定の国の通貨名ではありません。大英博物館の展示解説を見ると、広い地域のコインにスターテルという呼び名が使われていました。リディアやイオニア(現在のトルコ)・ギリシャの諸都市・マケドニア・トラキア・ガリアが挙げられています。素材も金・銀・エレクトロンとさまざまです。
スターテル金貨の重さは決まっていますか
一律ではありません。大英博物館は、最初期のコインが額面を金属の重量で計算したため厳格な重量基準に従って作られたと説明していますが、その基準は地域や時代によって異なります。リディアの金貨と銀貨も、額面ごとに複数の重量で発行されたと記されました。手元の1枚は実測して記録してください。
本物かどうかは自分で判断できますか
自分だけでの判断はおすすめしません。古代から模倣品やめっき偽造が存在したことは、大英博物館の展示解説にも記載されています。手打ちのため個体差が大きい点も、判断を難しくしている理由でしょう。実測値と写真をそろえたうえで、古代コインを扱った経験のある事業者に相談してください。
海外から持ち帰ったものでも売却できますか
まず、購入時の書類や譲り受けた経緯の記録が残っているかを確認しましょう。文化庁が説明する制度では、外国の博物館等から盗取された文化財が特定外国文化財として指定され、輸入が規制されています。来歴の記録が残っていると、相談の際の説明がしやすくなるでしょう。
磨いてきれいにしたほうがいいですか
磨かないでください。表面の状態そのものが、時代や来歴を読み取る材料になります。研磨によって失われた情報は元に戻せません。汚れの扱いは、専門家に実物を見てもらったあとで判断するほうが安全です。
まとめ
スターテルは特定の国の貨幣名ではなく、古代地中海世界で広く使われた呼び名です。大英博物館の資料では、リディアのエレクトロン貨からマケドニアやガリアの金貨まで、幅広い時代と地域の例を確認できます。まずは実測と写真で記録を作り、来歴の書類をそろえてください。当社では確認できた事実にもとづき、説明を添えながら査定を進めています。